メアリー・ポピンズ

 

 秋寒や夜半便所へふうらふら

会社のN田さんが小学生のときに好きで好きでたまらなかった
『霧のむこうのふしぎな町』の話をN田さんから聞いているうちに、
なんだかとっても読みたくなり、
ネットで調べたら、今は新書版になっているようでしたが、
どうせなら、
N田さんが読んだという大判で読みたいものだと思い、
古本のものを注文しました。
はじめに出てくる東北弁が少し気になりましたが、
霧をぬけ町に入るや、不思議な人たちがつぎつぎと現れ、
大人のわたしでも面白く読むことができました。
作者の柏葉さんのデビュー作で、
宮崎駿監督は『千と千尋の神隠し』を作るときに
これを参考にしたそうです。
柏葉さんは小学生の頃、
『メアリー・ポピンズ』が好きだったのだとか。
近所のひかりちゃんがメアリー・ポピンズの大ファンなので、
ひかりちゃんから借りて、さっそくこちらも読みました。
なるほど、『霧のむこう~』が好きなら
『メアリー・ポピンズ』も好きになるはず(あれ、逆か…)
というのも頷けます。
わたしの場合、小学生の頃といえば、
外で遊ぶのが忙しく、
教科書以外に読んだ本といえば、
子供向けの『ファーブル昆虫記』ぐらいのもので、
本なんて一冊も読みませんでしたから、
この年になって童話を読むのはどうかとも思いますが、
面白いから、ま、いいかという気持ちです。

 哀れ蚊に腕を延べても血を吸はず

090907_0906~0002

木の机

 

 バタバタと素っ頓狂の遅れ蝉

春風社には部屋の真ん中にどでかい木のテーブルがあります。
足柄山の仏師・吉田幸蔵さんがつくってくれました。
著者との打ち合わせ、版下づくり、企画会議、昼食、飲み会等々、
多目的テーブルとして活躍してくれています。
会社に来て二年ほどは、楠のいい香りが部屋中に漂っていました。
香りはさすがに無くなりましたが、ぬくもりは無くなっていません。
無垢の木を使っていますから、年とともに艶を増しています。
来年は、社員全員の木の机が買えるように、
仕事をがんばろうと思います。
一日が終わり、ストレスを発散するために飲むビールと、
一日充実し、いい仕事ができたなあと思って飲むビールでは、
自ずと味がちがいますし酒の回りもちがいます。
集中して皆が仕事に向かう姿を見ると、
そのなかで自分も仕事ができることをありがたく思います。

 爽籟や竹林の覇者千里の虎

090914_2044~0003

老眼

 

 踏切りを袋に詰めし酢橘かな

納豆が好きで、夕飯にはだいたい食べます。
納豆があるだけで画竜点睛、
しょくたくー、って感じがします。
それはまあいいとして、
このごろ気付いたことがあります。
パックを開け、練り辛子と醤油を入れ、
箸でぐるぐる掻き回すのですが、
どうも焦点が合いません。
おや、と思いました。
アルコールも入っていないのに、眼が回る具合です。
おかしい、おかしい。
掻き回すのを止めてみました。
ん!?
焦点が合います。ひょっとして…。
納豆のパックを顔から少し遠ざけて掻き回してみました。
焦点が合ったままです。
ははー、そういうことか。
納豆で老眼を知る秋となる、です。

 もらい過ぎ掛ける物なし酢橘かな

090913_2243~0001-0001

エネルギー消費

 

 無花果や下に膨れて垂れて落つ

目には見えなくても、
秋は確かにやってきていまして、
朝起きて温度計を見ると、このごろは26度です。
ひんやりしていい感じです。
日中は気持ちよく過ごして問題ないのですが、
夜、夏と同じようにタオルケット一枚で
うっかり寝たりすると、
夜中、寒気がして眼が覚めます。
しかも、体がなんとなくだるい。
体温を保持するために、
エネルギーを消費するせいではないでしょうか。
毛布か薄手の布団をかけて休むと、
ぐっすり朝まで眠ることができます。
谷川が流れる岩の上に世界中の面白い本が並べられていて、
わたしは川をジャンプしながら、
その本たちをパラパラめくっては、
次の岩場にジャンプして行きます。
そんな夢を見ていました。

 無花果を二つ並べてふぐりかな

090915_0728~0001

リラクゼーション

 

 無花果やスーパー口の箱七つ

夏の疲れが出る頃なのか、
夕飯が終わると、ドテッとなることしばしばです。
床に仰向けに寝転がり、椅子を引き寄せ、
膝から下を椅子の腰掛のところに乗せます。
だらしないといえば、実にだらしない恰好ですが、
これがなんとも気持ちいい!
そうしているうちに、寝てしまうこともあります。
ハッと眼が覚め、まずいまずい、ちゃんと布団に入らなきゃ、
なんて。
布団がなつかしい季節になってきました。

 酢橘もて玄関に立つおとこあり

090902_1315~0001

アメリカの朝

 

 気持ち良くて泣きたくなるよ秋の空

ニューヨーク発のパイとアメリカ料理のお店バビーズ横浜が
桜木町にオープンして三ヶ月が過ぎました。
入ったことはありませんが、前を通る30秒ほどの間、
なんとなくアメリカを感じさせてくれます。
外観が日本的にアレンジされてないというか、
アメリカの雰囲気が損なわれないようにこっそり移転させた
みたいな感じ。
一番は音楽のせいかも知れません。
お、今日はベッシー・スミスか。今日は、マイルス・デイヴィス。
ビリー・ホリデイ! ハービー・ハンコックかな?
携帯電話の着信音ほどの時間ですが、
アメリカの朝を勝手にイメージして歩きます。
少し歩調がゆるくなります。

 交通を遮断し闇の虫すだく

090810_1321~0001

ありがとう竹内敏晴さん

演出家の竹内敏晴さんが今月七日、膀胱癌のため、
亡くなられました。享年八十四。
先月二十九日、竹内敏晴構成・演出の『八月の祝祭』が
東京で行われました。
わたしは開演に五分ほど遅れて会場に着きました。
重いドアを開けたら、
車椅子に乗った竹内さんが舞台挨拶をしていました。
あまりの変わり様に驚きました。
体調が悪そうで、挨拶半ばで退場し、
スタッフの一人が竹内さんの原稿を代読しました。
二時間半の舞台が終わって、会場を出ると、
車椅子に座った竹内さんがそこに居ました。
受付のところの数名のほかは、まだだれも居ません。
わたしはすぐに竹内さんに近づき、握手しました。
竹内さんは、黙ってわたしを見ました。
小さくなった竹内さんに驚き、なんと声をかけたらいいか分からず、
わたしは手を離し、隅のほうへ行きました。
やがて会場からどやどやとお客さんが出てきて、
竹内さんに挨拶をしています。
わたしはしばらく
竹内さんとお客さんたちのやり取りを見ていましたが、
竹内さんは頷くばかりで、ほとんど口を開きませんでした。
よほど具合が悪いのでしょうか。
誰かが「今日の舞台良かったですよ」と声をかけたとき、
竹内さんは、指でサッと涙をぬぐったようでした。
わたしは竹内さんの奥様と少し話をした後、
もう一度竹内さんのところに行き、しゃがんで、手を握り、
お礼をいいました。
竹内さんは、わたしの手を握り返し、
また、黙ってわたしを見ていました。
いけないいけないと我慢しましたが、
涙がこぼれてきて仕方ありませんでした。
竹内さん、竹内さん、竹内さん、竹内さん、と声をかけながら、
竹内さんの膝や脚をさすりました。
これが竹内さんとの最後だと直感しました。
それから一週間で竹内さんは旅立たれてしまいました。
いただいたものが多すぎて、言葉になりません。
仕事を通じて、少しでも形にしていけたらと思います。
ありがとうございました。

ご冥福をお祈りします。