財布

 

 花冷えの雨をくぐりて出社かな

先日、小椋佳さんのコンサートに行ったことは
すでにここに書きましたが、
コンサートのテーマは、
最近出したCDのタイトルにちなみ、「邂逅」でした。
かいこうと読みます。
偶然の出会いとか、めぐり合いという意味ですが、
ふつう好い意味でつかわれるけれど、
偶然の出会いは、いいものばかりとは限らない、
なんて前置きしつつ、
小椋さん、これまでの人生で、
四度ほどカバンを盗まれたことを話してくれました。
四度全部についてではなく、いちばん最近のもの。
新幹線で盗られたそうです。
「人を見る目があるんでしょうねえ」などと、
小椋さん、とぼけたことをおっしゃっていました。
そうおっしゃったあとで歌った歌が
「めまい」だったのには笑えました。
ところで、わたし自身のことですが、
二日つづけて財布を、
盗られたのではなく、忘れた夢を見ました。
わたしは現実にもよく忘れ物をします。
さて、どんな夢かというと…
インドの山の上で楽しいひと時を過ごしていたわたしは、
下で山形の工藤先生を待たせていることを思い出し、
大急ぎで山を駆け下りました。
先生お待たせしました! と近寄ったのですが、
頂上の店に財布を忘れたことに気がつき、
それには日本へ帰るための切符も入っていたので、
先生に訳を話すのもそこそこに、
急いで取って返しました。
ところが、
下りるときは気づかなかったのですが、
坂の途中、いくつもの分岐点があり、
どちらの道を上ったら
頂上にたどり着けるのかがさっぱり分かりません。
間違えた道をえらび、
崖の上から大きな石が
頭上をかすめて落ちていったりします。
また分かれ道のところまで戻らなければなりません。
行ったり来たりを繰り返し、
途方にくれてしまいました。
けさ眼が覚めて、まず一番に、
カバンの中の財布を確かめました。
ちゃんと、ありました。

 とぼとぼと歩く男を山笑ふ

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江戸のミステリー

 

 うすくれなひ声なき声の山笑ふ

法政大学の田中優子教授から教えていただき、
神田明神内「明神会館」で開催される明神塾(巻の十三)
「江戸のミステリー」(源内と直武~江戸と秋田)の
一回目を受講してきました。
講師は田中優子さん。
おもしろかったー!!
謎が謎呼ぶ殺人事件! ほんとに。
あの天才・平賀源内と秋田蘭画の創始者・小田野直武が
恋人同士であったとは!
知らなかったー。
六回シリーズで源内事件の謎が解かれたとき、
これからの日本が見えてくるという、
壮大な物語の始まり始まりでした。
また、秋田からの風が吹いてきました。

 花の雨すそを濡らして止みにけり

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小椋佳コンサート

 

 ゆらりゆら三島梅花藻やまわらふ

に行ってまいりました。
神奈川県民ホールは超満員。
小椋さん、六十六歳だそうです。
休憩を十分挟みましたが、
正味三時間、
ゆたかな小椋さんの声と歌とトークを
たっぷり味わいました。
客層は、わたしはたぶん若いほうで、
小椋さんと同年代の人が多かったでしょう。
歌の最中、隣りのおじさんをふと見ると、
眼を閉じて眠っているようでしたが、
歌が終ると、ハンカチを出し、
両目を拭きました。
思い出の歌だったのかもしれません。
♪ 真っ白な陶磁器を眺めては飽きもせず…
で始まる「白い一日」という歌です。
その歌に関するわたしの思い出といえば、
なんで真っ白な掃除機を眺めて飽きないんだ?
と、疑問に思いながら聴いていたことです。
ですから、
泣くどころか、笑ってしまいます。

 桜散るコーヒー片手のバルザック

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源平川

 

 新幹線車窓にぎはす桜かな

仕事の打ち合わせで、
三島に行ってまいりました。
きれいな街です。
ゴミがひとつも、というわけにはいきませんが、
それに近いぐらい落ちていません。
土地の人々の意識が、
それだけ高いということのようです。
自然にそうなったわけではなく、
グラウンドワーク三島というNPO法人が中心となって、
二十年の歳月をかけ、地道に、
倦まず弛まず精進してきた結果といえるでしょう。
街を流れる源平川は、
五月の中旬ぐらいから蛍が舞い、
人びとの目を楽しませてくれるそうです。
散歩する人、自転車を颯爽とこぐ人、
なかなか現れない鳥をジッと待つカメラマン、
それぞれ美しい街に溶け込んでいました。

 竹林の下を華やぐ桜かな

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突然ですが

 

 花曇り落ちて行きたき心あり

岩崎宏美さんの歌で、
「シンデレラ・ハネムーン」というのがありました。
♪いつでも二人はシンデレラ・ハネムーン
♪時計に追われるシンデレラ・ハネムーン
作詞・阿久悠、作曲・筒美京平の
ゴールデンコンビですから、
ヒットしないわけはありません。
でも、ちょっと古い歌ですから、
若い人は知らないかもしれません。
当時はけっこう流行って、
岩崎さん、テレビでよく歌ってました。
ところで、
タイトルにもなっている
「シンデレラ・ハネムーン」ですが、
岩崎さんが歌うのを聴くと、
わたしにはどうしても
シンデレラ・ハネムーンとは聞こえずに、
シンデレレラ・ハネムーンと聞こえるのでした。
そのことをきのうの朝、急に思い出したのです。
アップテンポの曲に合わせ、
岩崎さんは踊りながら歌うのですが、
いつでもわたしは
シンデレレラ・ハネムーンにしか聞こえません。
それが可笑しくて仕方ありませんでした。
まじめな、いい歌なんですが、
シンデレレラ・ハネムーンと聞こえて
普通にしていられるわけがありません。
シンデレレラ・ハネムーン、シンデレレラ・ハネムーンと
繰り返し、
わたしはちょっぴり元気になるのでした。

 暑き春カチリと鳴りし入歯かな

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二日遅れ

 

 あたたかに郵便ポストの立ちにけり

秋田に秋田魁新報があります。
秋田を代表する新聞です。
魁という字がむずかしいので、
最近は「秋田さきがけ新報」とも表示されるようです。
全国で四番目に古い由緒正しき新聞ですが、
今月から会社で取ることにしました。
「さきがけ」が縁となり、
いくつかのありがたい仕事をいただき、
ふるさと秋田について、
もっとよく知る必要を痛感したからです。
第三種郵便で送られてくるため、
おととい発行されたものが今日届きます。
♪三日遅れの便りをのせて 船が行く行く 波浮(はぶ)港
という都はるみさんの歌がありましたが、
いや、今もありますが、
一九六四年にヒットした歌ですから、
今はあまり聞きません。
「アンコ椿は故意の花」
おっと失礼、
「アンコ椿は恋の花」。
アンッコー!!と、都さんのあのふんばり声が思い出されます。
「さきがけ」は二日遅れです。
(え。それを言いたいためだけの「アンコ椿」かよ)
秋田で読む「さきがけ」と横浜で読む「さきがけ」は、
ちょっと違っているようです。
記事はもちろん同じなのですが、
わたしの気分が違っているのでしょう。
なかなかおもしろい体験です。

 あたたかやコップの水の三杯目

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早起き

 

 夜桜やキツネタヌキの化かし合い

朝起きてから家を出るまで
いろいろとすることがあり、
眼が覚めたことをこれ幸いにと、
だんだん早起きになりまして、
今は五時に起きています。
歳をとると早起きになるといいますが、
本当のようです。
まず歯をみがき、水を飲んで、
それからこれを書いたり、気功をやったり、
風呂に入り、祖父母に水を上げたり、
けっこういそがしい。
それでもまだ時間がありますから、
やおら体に毛布を巻き、椅子にあぐらをかいて座り、
万全の態勢で朝読みの開始!
バルザックの『人間喜劇』を
五年かけて読もうと思っているところです。

 いずこよりいずこへ渡る花曇り

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