全品半額!

 

 打ち合わす工事現場の寒さかな

いや、春風社の本じゃなく。
伊勢佐木書林さんで販売している古書が。
今月十八日で店じまいをするそうです。
昼食後、行ってきました。
これからは、
インターネットをつかって売っていくと。
ツブヤ大学のゲストとして、
来年一月お招きしたい旨をあらためて申し伝え、
奥様を交え店主の飯田さんと話していたら、
少し腰の曲がった女性がカウンター上に本を置きました。
遠藤周作の『沈黙』。
百円玉を手渡し、
「本当にこれでいいの?」
「はい。ありがとうございます」と奥様。
女性は、袋に入れたもらった本と
お釣りを持って店を出て行きました。
わたしが店にいる間、
数名の方が本を買っていかれました。
店のあちこちに「全品半額」の札が貼ってあります。
お近くの方、いかがですか。

 物言へば胸に棘あり冬の月

憑き物

 

 寝床にて雪の音きく帰郷かな

九年越しの原稿を手放したら、
憑き物が落ちたように体がスーッと軽くなり、
なんだこれはー! と我ながら驚いたりはしゃいだり。
隙間時間を見つけて読み返しながら、
納得できず考えあぐね、
書き直し書き直ししてきた原稿から、
ようやく解放されました。
数日、体調がすこぶる宜しい。
師匠である故・安原顯さんと出会ったころから、
文字を書こうとするといつも引かれていく場所。
そこを超えられず無駄に時を費やしてきた気もします。
無駄でなかった気もします。
そのときどきに一所懸命、
まただらしなく、
不貞寝したりしてやり過ごしてきた時が我が身を離さず、
後から後から随いてきて、
落とし前を求めてくる。
逃げるわけにもいきません。
書くことで考え、
推敲することで確認することがいくつかありました。
これで、いい正月が迎えられそうです。
なんちゃって(古)

 ふるさとでラーメンを待つ友の顔

困ってるひと

 

 億千の無音の音や冬の朝

元社員で、
今は独立して編集者・装丁家の道を歩んでいる
長田年伸さんから薦められ、
さっそくアマゾンで購入。
大野更紗『困ってるひと』(ポプラ社、税込1470円)
先週金曜日に届き、
箱を開けて本を取り出していたら、
営業の大木さんがそれを見、
「あ。その本わたしも読みました」
「そう。おもしろかった?」
「はい。おもしろかったです」
というわけで、
きのうさっそく読み始めました。
我らが中島岳志さんも朝日新聞で書評していたではありませんか。
(忘れとりました。ゴメンナサイ!)
原因不明の難病を発症し、
考えられない痛みと苦しみに苛まれながら、
陰陰滅滅に陥らず、
自身の置かれた状況をクリアに把握し、
読者サービスを忘れることなく面白く読ませるという、
アクロバット的な書きっぷりにまず驚きます。
天晴れ! です。
それにしても、
この難病の壮絶なること想像を絶します。
細胞検査のため、
麻酔なしで手術し筋肉を抉り取るって、
そんな手術あるの?
痛そうで考えられません。
つくづく頭のいい人なんだろうなあと思いました。
文章について自己規制がきびしく、
深刻になりそうになると自らツッコミを入れ、
けっして酔わず、溺れず、歌わず、
スマートに軽快にバランスをとっていきます。
つい先を読みたくなります。
応援したくなります。
痛みと苦痛の入院先で、思わぬ出会いもあります。
二二三ページ、ウッと泣きそうになりました。
家人がいなければ間違いなく泣いていたでしょう。
壮絶な闘病記なのに、笑いあり感動の涙あり。
そして教えられることいっぱいの、
すばらしい本でした。

 雪積もり雪積もりして青さかな

新幹線チケット

 

 出てみればどっと重たき冬の雨

いつも行く格安回数券売り場を覗いたら、
正月六日までは使えないとのことなので、
あきらめてJR緑の窓口へ。
くねくねと蛇のような列の後ろに並び、
途中途中に置いてある「間違い探し。間違いが10個あります。
すべて正解の方には拍手を送ります」
のプレートで気を紛らわしているうちに、
最前列になり、
声をかけられました。
なるべく安く買いたいので、
「あのー、わたくし54歳なのですが、
東京―秋田往復のチケットを安く買う方法はないですか?」
と質したところ、
マスクをした若い男性は、
にこりともせず、
「一般的には年齢によるサービスはございません。
ただ、ふるさと行きの乗車券というのが使えますからお勧めします」
ということでしたから、
それをお願いしました。
正確には分かりませんが、
格安回数券と同じぐらいの値段ではないでしょうか。
訊いてみる野茂です、いや、ものです。

 枯葉踏み一足ごとの山猫軒

よこはま本への旅

 

 校正後立ちてふらりとよろけたり

NPO法人ツブヤ大学とヨコハマ経済新聞とのコラボ企画
「Book学科ヨコハマ講座 よこはま本への旅」
の第2回が「新文化」に掲載されました。
コレです。
取材、執筆、掲載の労をとってくださったのは、
新文化通信社の冨田薫さん。
薫と書いて「たぎる」と読みます。
昨年秋田で開催されたトークイベントには、
わざわざ車で駆けつけ取材してくださいました。
まさに闘志たぎる!です。
こちらの意図を汲んでくださり、
打てば響くような対応ぶりにいつも感心し、
感動します。
ありがとうございました。
「よこはま本への旅」第3回は、
今月21日午後8時から、
作家の山崎洋子さんをお招きし、
「ホテルから横浜が見える」と題しお話を伺います。
会の最後に最新刊『横浜の時を旅する』(春風社)の
販売とサイン会を行います。
ふるってご参加ください。
お申し込みは、
ツブヤ大学のサイト(こちら)をご覧ください。

 文字通り走ることあり十二月

ましゅぐなれ

 

 冬の朝ページするりと滑りけり

わたしのふるさとでは、
腰抜け、臆病者のことを「ましゅぐなれ」と言います。
「ましょぐなれ」とも言うようです。
死ぬ直前の祖父に向かい、
父は「ましゅぐなれ」と叫び、
涙ながらに体の表と裏を拭いてあげていました。
忘れられません。
秋田の無明舎出版から上梓されている『秋田のことば』に、
語源が出ていました。
「生まれ損ない」が元だというのです。
鹿角を除く県全域に分布していると記されています。
さっそく父に電話して確認したところ、
元の意味までは知りませんでした。
自分の親に対して父は、
「生まれ損ない」と叫んでいたことになります。
言われた祖父も、
意味を知っていなかったでしょう。
「ましゅぐなれ」に似た言葉に
「だんこのげ」あるいは「だんこぬげ」があります。
脱肛が元の意味で、
腰抜け、臆病者、弱虫の意で使われます。

 寒空や神の魚の踊るころ

むで

 

 友来りラーメン啜る音を聴く

石巻出身のカメラマン橋本照嵩のお父さんは、
村田英雄の声を評し、つくづく
「むでな声だなあ」と言ったそうです。
むでな声。
むでは無手でしょうか。
無手勝流という言葉もあります。
村田英雄が生きていて、
石巻の仮設住宅地区の地面に蜜柑箱を置き、
裏返したその上で無法松の一生や皆の衆を歌ったら。
そんな想像をしながら、
橋本さんとむでな村田の歌に聴きほれました。

 一献の純米吟醸腹温む