ハイネとヘーゲル

 

ある晩遅くなってから彼は、ベルリンで勉強していた頃はよくそうしたように、
ヘーゲルを訪問した。
ハイネは、ヘーゲルがまだ仕事をしているのに気づいたので、
開いている窓に歩み寄り、
暖かく星の明るい夜の方を長いこと見つめていた。
……………
突然、
自分がどこにいるかまったく忘れていたハイネの肩の上に手が置かれ、
同時に次の言葉が聞こえてきた。
「星々ではなく、人間がそこに解釈するもの、それこそがまさに問題なのです!」
踵を返すと、ヘーゲルが彼の前に立っていた。
その瞬間から彼は、
ヘーゲルその人のうちに、
その学説が彼にとってひどく難解なものであるにせよ、
この世紀が鼓動しているのを知ったのである。
(編集/校閲 和泉雅人・前田富士雄・伊藤直樹
『ディルタイ全集 第5巻 詩学・美学論集 第1分冊』
法政大学出版局、2015年、p.90)

 

ヘーゲルの『精神現象学』を読むと、
いつの間にか、
眉間に皺が寄ってくるような気になりもしますが、
こういうエピソードを目にすると、
ことばの論理によって
世界に触れていこうとするヘーゲルの気概がほの見えるように思えます。

 

・泣き笑ひ一日一生亀の鳴く  野衾