蜘蛛

 

・大海に蟻載せ板の彷徨へり

蚊は殺しますが、
蜘蛛は殺しません。
ダニを食ってくれると聞いたような。
なので、
我が家では
蜘蛛は我が物顔で室内を闊歩しています。
目の前に
つーと糸を垂らして下りてきたり。
蚊も
殺したくはないのですが、
痒くなりますから
ついバシッとやっています。
ぷ~んというあの音もイラッとする。
修業が足りません。
ところで、
共棲する蜘蛛たちが
我が物顔で立ち居振る舞うのは
まあいいとして、
寝ているときに
脛や腹の上を
わさわさ這い回るのはやめてもらいたい。
あ蜘蛛だ、
と思う前に
わさわさ感が気持ち悪く、
それと気づく前に
つい手のひらで払ってしまいます。
微小生物なので、
これで殺られてしまう場合もあるでしょう。
けさがそうでした。
あ。
出てきた。

・秋風や腹に大穴開きにけり  野衾

桐華祭

 

・秋風や朝から電気ほほほほほ

十文字学園女子大学の学祭「桐華祭」
の案内をいただきました。
十文字学園女子大学は
埼玉県新座市にある私立の女子大学で、
今年の四月から七月まで
わたしは外部講師を務めました。
その折、
講座のゲストとして
何名かお招きしたのですが、
二代目高橋竹山(たかはしちくざん)さんも
お招きしたいと思っていました。
初代を受け継いだ
著名な津軽三味線の演奏家です。
学長に
そのことを話したところ、
それならぜひ学祭でということになり、
その方向で竹山さんと交渉してくださり、
今月二十六日、
桐華祭の特別講師として
お越しくださることになったようです。
素晴らしい演奏を聴きにわたしも参ります。
お近くにお住まいの方、
遠くの方もいかがですか。
詳細はコチラです。

・好きなれば三日連続秋刀魚かな  野衾

忘2

 

・哀れ蚊をつかみ損ねて五十肩

U2ていうロックグループがありましたが。
それなりに好きでしたが。
U2でなく
忘2。
ついこの間、
おのれが五十肩であることを忘れて痛い目にあい、
五十肩五十肩と
老婆が念仏唱えるように
肝に銘じていたにもかかわらず、
休みの終日、
本を読んでいての夕刻、
ぷ~んと微かに音がしたから、
ひょいと右手を伸ばし
パッ!でギュッ!
げんこつをにぎった。
うぎゃぎゃぎゃぎゃーーー!!!
痛いの痛くないの。
声も出ず、
右肩を左手で覆ったまま、
スローモーションで
椅子からダダンと転げ落ち、
床に
ダンゴムシのように丸く倒れこんだ。
なおかつ、
蚊には逃げられ。
身の程知らずもいいところ。
嗚呼。

・高値にて腹残さずの秋刀魚かな  野衾

ハリガネムシ

 

・秋深し人生五十五年生

家を出て
保土ヶ谷橋へ向かう階段を下りていたときのことです。
右手二段下で
細い線のようなものが動きました。
ん!?
「なんか動いているぞ!」
家人「え!? なに?なに?」
「ほら!」
家人「あ。よく見つけたわね! なにこれ。気持ち悪い!」
「………」
それはまさに曲がった細い線。
というか、
錆びた黒っぽい針金。
針金が
ギギギギギ…と
音立ててくねっているようです。
むむ。
初めて見ました。
ミミズともちがいます。
色も形も動き方も。
ミミズなら
伸び縮みを繰り返しながら前進しますが、
こいつは全身でもがいているとしか思えません。
ははー。
わかったぞ!
ハリガネムシとかいうものだな。
そうにちげえねえ。
横浜駅まで出かけ
用を済ませ、
家に帰ってさっそく調べたところ、
まさにそいつはハリガネムシでした。
五十過ぎて初めて見ました。
感動!

・コンビニの弁当のよな俳句かな  野衾

いのちが通る

 

・ぱふぱふと煙り吐きそな海月かな

新井奥邃著作集を読んでいると、
ハッと我が身を
振り返らざるを得ない言葉に
ときどき出くわします。
「昵懇」と「親近」もその一つ。
男女を問わず、
親しきもの同士が
別れなければならない理由の多くは、
お互いの関係が
親近でなく昵懇だからであると。
親近は
「愛敬して遠立」すべき関係として、
昵懇は「狎れ親しむ」関係として
イメージされているようです。
これはあくまでもわたしの拙い理解。
哲学者の森信三はかつて、
奥邃の言葉は
(ある一つの言葉について言っているのですが)
意味を理解しようとしても不可、
感じるでもダメ、
なぜなら、
奥邃の言葉によって
「いのちが通る」からだと語っています。
奥邃の言葉は生きていて、
何度試みても
暗唱することができないと。
わたしも暗唱できません。
物忘れがひどくなったからできない
のでなく、
漢文調だからできない
のでなく、
生きている言葉だから暗唱できないのです。
「昵懇」と「親近」についても、
意味の理解とは別に、
その箇所を読んだときの
静かな興奮と緊張は
筆舌に尽くし難く、
目を閉じ
じっとしているしかありません。

・イルカより姐さん見てゐるイルカショー  野衾

不忘

 

・等間隔にひとやひとやと彼岸花

保土ヶ谷駅で電車を降り、
国道一号線沿いを保土ヶ谷橋へ向かいながら
ぷらぷら歩いておりました。
午前の雨が上がり、
空気がこころもちスッキリしたようです。
カウンターだけの焼き鳥屋あり、
このごろとんとご無沙汰のコットンクラブあり、
わたしと同年齢のなべちゃんが経営する
グラン・ブルーあり。
ひょいと覗くと、
いつものY姐さんが
ドアのそばのいつものカウンターに。
Yさんきょうも来ています。
ここまでは
昨日ここに書いたこととほとんど同じに
進行しました。
思うことまで同じです。
が、
身の程を知ったわたしはこころに念じます。
五十肩五十肩五十肩五十肩……。
仮にYさんと目が合っても
今度は手を挙げずにお辞儀をしよう。
そうしよう。
そろりそろり二歩三歩。
通り過ぎようとしま…。
と、
Yさんこちらを振り向かず。
ほ。
お辞儀することもなく、
そうっと息を殺して店の前を通り過ぎました。

・鳶注意北鎌倉の秋深し  野衾

 

・五十肩忘れ激痛走りけり

保土ヶ谷駅で電車を降り、
国道一号線沿いを保土ヶ谷橋へ向かいながら
ぷらぷら歩いておりました。
カウンターだけの焼き鳥屋があり、
このごろとんとご無沙汰のコットンクラブがあり、
わたしと同年齢のなべちゃんが経営する
グラン・ブルーがあり。
ひょいと覗くと、
いつものY姐さんが
ドアのそばのいつものカウンターに。
Yさんきょうも来ているなぁ。
二歩三歩。
通り過ぎようとしま…。
と、
Yさん視線を感じたか体をこちらへねじった。
あ、どうもどうもで
わたしは右手をサッと挙げ
あばよ、
かっこよく去るはずであった。
のに、
Yさんに見とれ、
五十肩を忘れて手を挙げた瞬間、
雷が落ちたような激痛が走り
わたしはしばし歩道に蹲りました。
いっってーーーー!!
身の程を知りました。

・さやさやと娘招きし薄かな  野衾

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