『失われた時を求めて』再読

 

・思考停止けふも残暑の句となりぬ

高校教師をしていた二十代、
そのころは土曜日も授業があり、
二時間つづきのゼミをもっていたわたしは、
その時間をつかい読書会を行ったり、
文化祭に向けた芝居を
生徒といっしょに稽古したりしていました。
ふだんの日よりも授業準備がたいへんで、
終るとぐったりくたびれ果て、
プルーストの『失われた時を求めて』
を読みたくても、
日曜日しか時間をつくれませんでした。
それに、
もちろん翻訳ですが、
のたくるようなあの文章です。
高遠さんのようなキレのいい日本語訳はまだなく、
眠くならないはずがありません。
両頬を自分でビンタしたり、
両目をカッとひん剥いたりするのですが、
数秒後には
眠りの底なし沼に引きずられてしまいます。
それでも、
読まなければ読まなければと思って、
読みつづけました。
見栄もあったでしょう。
いや、
見栄しかなかったかもしれません。
ともかく、
一年と数ヶ月かけて読み終りました。
辛抱づよさだけはあるのです。
いま、
ほぼ三十年ぶりに再読にかかっています。
今度は毎日、
早朝のいちばんいい時間をあてています。
あまり眠くなりません。
ほんとうは高遠さんの訳で読みたいのですが、
全部訳し終わるのに、
あと十年はかかるでしょうから、
ちくま文庫に入っている井上究一郎訳で読んでいます。
さて、この間、
わたしの三十年も失われたので、
書名がぐっと身近になりました。
せっかくですから、
今年七月に出たばかりの
海野弘著『プルーストの浜辺―『失われた時を求めて』再読』
も読んでみようと思います。

・タクシーの漕ぎ手も嘆く残暑かな  野衾

 

 

●ツブヤ大学「BooK学科ヨコハマ講座」

春風社事務所を会場にして、
毎月行っているトークイベントのお知らせです。
今月は、
「長田弘の読書会」と題し、
詩人の長田弘さんをゲストにお招きします。
日本を代表する詩人のお話をすぐ近くで拝聴し、
じかに対話できる絶好の機会です。
本を読むこと、詩を書くこと、生きること、
について
時間のゆるす限りうかがいたいと思います。
当日は、
長田さんのたくさんある自著のなかから、
以下の本をとりあげ、
楽しい会にしたいと思います。
ふるってご参加ください。
お早目のご予約をお願いします。

『ねこに未来はない』(角川文庫)

『記憶のつくり方』(朝日文庫)

『定本 私の二十世紀書店』(みすず書房)

●日時 9月15日(土)午後3時~
●場所 春風社
●参加費 1000円

詳しくは、こちらをご覧ください。