走る男

 

 講演会うつむく母を見つけたり

無人駅のホームに、
一人の男が立っています。
襟足と耳の横は刈り上げですが、
ほかは背中まである長髪で目立ちます。
でも、
そんなことは気にしません。
格子縞のシャツを着、
ときどきジャンパーを羽織り、
グレーの綿パンをぐいと腹まで持ち上げ、
裾は靴下を超え、脛まで見えます。
何か探しているのか、
何を探しているのか、
人に興味がないのか、
遠くを見つめ、
ひたすら列車の到着を待っています。
待ちきれず、
走って列車を迎えに行きます。
二輌しかない列車の後部ドアから乗り込み、
外を眺めています。
何か探しているのか、
何を探しているのか、
目が離せません。

 出し切れば破れ盥に秋の風