見えないもの

 ずっと前に買って本棚に置いたまま読まずにきた本がいくつもある。あるとき、どういうわけだか目に止まり手にとってパラパラと頁をめくっているうちに、つい引きこまれて読む本がある。鎌田茂雄の『仏陀の観たもの』(講談社学術文庫)もそうしたものの一つ。
 仏教をわかりやすく説いた本は二十代の頃より好きで読んでいたから、おそらくこの本も題名に惹かれて買ったものだろう。それなのに読まずに積んでおいた。数日前、朝、ふと目に止まり読み始めたら止まらなくなった。わたしの意識がというよりも、本のほうが、ある種の「気」を発していて、それが今のわたしの気と同調したとでもいうのだろうか。
 人でも本でも木でも花でも石でも、それぞれの気を発していて、目には見えないけれども、こちらの気に反応してか、こちらが感応してかはわからないが、新しく発見したような気がして驚き、うれしくなることがある。
 『仏陀の観たもの』の中には『正法眼蔵随聞記』からの引用として、「花の色ろ美なりと云えども独り開くるにあらず、春風を得て開くるなり。学道の縁もまたかくの如し」の言葉が紹介されている。