バランスチェア

 火点しごろ這ひ上りくる残暑かな

仕事をするときの姿勢はとても大事です。
とくに背骨のゆがみは集中を生みません。
クリエイティビティにも深く関わっています。
税理士の先生から、少し経費を使ってもいいよと
お許しが出ましたので、さっそく、
「21世紀の椅子」の誉れ高いノルウェー製の
バランスチェアを見に、大手家具屋さんに行ってきました。
実際に座ってみると、
腰への負担がまったくありません。
膝で体重を支え、少し体が前傾します。
なので、自然と背筋が伸びてきます。
ちょうど、座禅をするとき、
お尻の下に座布を当てたような具合です。
座禅の形を椅子で行うわけですから、
これは集中できそうです。
家具屋さんの話では、腰の痛い方、
子どもの勉強のためにと求める方もいるそうです。
実はこれ、20年ほど前、
当時ノルウェー大使館に勤めていた友人宅で
似たものを見たことがありました。
変な形の椅子だと思いましたが、
そのときは、そう思っただけで、
以後すっかり意識から遠のいていました。
このごろ気功をやっているせいか、背骨が気になり、
良い椅子がほしいと思っていた矢先、
先の税理士先生のありがたい言葉がありました。
社員人数分のバランスチェアを買おうと思います。

 新涼やつい口走る気持ちいい

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新涼

 箸二膳はふはふほうと蟹チャーハン

帰宅してまず一番にすることは、
汗でガムテープのように貼り付いた衣類を剥ぎ取り、
ぬるめの風呂にザンブと入ることです。
朝沸かしておいたのが冷め、
ちょうどいい湯加減になっています。
さっぱりしてバスタオルで体を拭き、
ようやくやれやれとなります。
ところが、昨日は、
猫たちが我が物顔に闊歩する自宅近くのあの
きつい階段をふうふう言いながら上ったにもかかわらず、
ほとんど汗を掻きませんでした。
今朝起きて温度計を見たら27度。
昨日の朝より一度低くなっています。
昼は残暑が厳しくても、朝夕はめっきり涼しくなりました。
わたしは帰りませんが、来月はもう稲刈りです。

 秋の宵ネタを探して一時間

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漢字vs.平仮名

 烏賊を下げ踏切に立つ残暑かな

本作りで悩むことの一つに漢字を使うか
平仮名を使うかの問題があります。
問題というほど大げさなものではありませんが、
たとえば、「わかる」「しれない」「あらわれる」。
本によってこの三つを選択する場合もあります。
でも、必ずそうするかというと、そういう訳でもありません。
「わかる」でなく「分る」や「分かる」で行く場合もありますし、
「しれない」でなく「知れない」、
「あらわれる」でなく「現れる」や「現われる」で統一したり。
著者の好みもあり、なかなか微妙です。
「わかる」で統一していても、
ある場面では「分かる」「分る」を意図的に使う場合もあります。
「わかる」よりも「分かる」「分る」のほうが、
ハッキリさが出ているような気がするからです。
いずれにしても、悩ましい。
編集長ナイ2が詩人の飯島耕一さんの本を編集していて、
字句の統一について質問したところ、統一する必要はない、
そのままでやってくださいとのことだったとか。
ナイ2、どうしてですかと尋ねたら、
気分で書いてますからというのが飯島さんの答えでした。
言うに言えない気分というのも大事な要素なので、
そうなると、ますます微妙になります。

 秋立つとゐへど寝てゐる空を見る

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へそ曲がり?

 父も見し故郷の川の河童かな

坪内稔典(つぼうち・としのり)さんの『季語集』に
毛虫についての項がありました。
毛虫は一般的には嫌われがちだが、
それだけに俳人は毛虫をことさらに愛する、というのです。
また、俳人は伝統的にへそ曲がりだとも。
触りたくはありませんが、
もごもご動いている毛虫が居ると、ジッと見てしまいますから、
わたしが俳句に惹かれていったのも、
へそ曲がりの血が疼いたからかも知れません。
わたしの好きな毛虫の句に、
「アスファルトひたすら急ぐ毛虫かな」(不習経)があります。

 砂糖かけ真っ赤に熟れしトマト食う

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びっくりしたー!

 なんとなし不安に駆らる秋となり

ただいま『日本をマネジメントする』という本を編集中です。
アメリカで起業し、他の会社の起業にも
関わってこられた著者が、
ビジネス上の視点から日本を眺めてみれば、
こんなことが見えてくるということを、
歯に衣着せぬ言葉で綴ったエッセイです。
著者はシカゴに住んでおられるので、
仕事はすべてメールで進めてきました。
昔なら考えられないことですね。
ところで、問題が発生しました。
昨日になって気付きました。
初校にあった図表が、著者校正後のデータには
見当たらなかったので、
著者が不要と判断し削ったものと思っていたのですが、
インデザインという編集ソフトにデータを流し込んだら、
削られたと思った図表が忍者のように現れました。
びっくりしたー! 超びっくり!!
再びワードデータを開けて見たのですが、
ワードではやっぱり姿を現しません。まさに忍者!
などと、比喩を愉しんでいる場合ではありません。
早めに出社し、対応策を講じなければ。とほほ…。

 眼の裏に滑る石あり秋近し

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高調子は損

 青山を仰ぎ波打つ青田かな

弊社の男性社員は、わたしを除き総じて滑舌が悪い!
「え?」「なに?」「なんて言った?」と、
訊き返すことしばしばだ。
編集長ナイ2は哲学、オカピーは言語学、テラチーは心理学を
それぞれ専攻した優秀な学徒であり、
低い声で滑舌悪く話されると、相当深い話をしているかと思って、
こちらとしては訊き返すことがはばかられる。
場面と文脈から、空気の震え、唇の震えを読むようにし
聞き取ろうとする。それでも聞き取れず、
訊き返すことがなんとなくしづらい時は、あいまいに受け答え、
犬のように笑うしかない。
よほど深い話だったのではと気になり、仕事が手につかず、
勇気を出して訊き返してみたところが、
「最近のポテトチップスで美味しいもの、なんかありますか?」
みたいなことが間々ある。
教訓。滑舌の悪い低い声の話には気をつけるべし!
高調子は損をする。
ジャパネットたかたの高田明社長のあの声、
どうしたって哲学や言語学や心理学には似合わない。
「さあみなさん、ハイデガーの存在と時間、買いましたかー?
まだ買っていない人のために、今回は特別、
いま流行りのマルクスの資本論をつけて、なんと5000円!
手数料なしの10回分割払いのお得なコースもあります。
どうですみなさん。ハイデガーとマルクスが
ひと月たった500円で自分のものになるんです。
オンナの子にもモテモテ!
金利はジャパネットたかたが負担します」
ぼくは高田社長が好きなので、すぐ買っちゃいそうだけど、
ウチの滑舌の悪い三人は絶対乗らないだろうなあ。

 山背来て銀色しずくの稲穂かな

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端居

 祖父のもと足投げ出して端居かな

家の端近くに出て座っていること。はしい。
特に夏、涼をとるため縁先などに出ること。夏の季語。
『大辞林』の説明に、そうあります。
この言葉を最近、坪内稔典『季語集』(岩波書店)で知りました。
すぐに思い出したのが、祖父の姿です。
秋田の実家は風通しがよく、夏になると
祖父は決まって洋間のソファーに寝転がり、
片手を額にかざすような恰好で昼寝をしていました。
口が少し開いています。
祖父の場合、座らないで寝転んでいましたから、
端居ではなく端寝、ですかね。
ともかく、その姿を見ているだけで安心したものです。
祖父が居なくなって、その安心が
どこかへ飛んでいってしまいました。

 からからと蝉八匹転がれり

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