足業の父

 

・桜木町カップル集ふクリスマス

休日、
ぎりぎり電車に乗り込んだときのこと、
ホッとし回れ右するや、
さらに数歩後に
一人の男と一人の子どもが滑り込んだ。
と、
ドアの外に小さな男児が残された。
ド、ドアが閉まるっ、
と思いきや、
ん!?
ん!?
なんで!?
ドアが閉まらない!
見れば、
男が左ひざの下を折り曲げドアに挟んでいる。
自分が電車に滑り込んだあと、
間髪入れずにそうしたものと思われる。
見事!
天晴れ!
子を思う父の愛!
足業が功を奏し、
ドアが開けられ、
男児は無事に救出、
いや、
電車に乗り込んだ。
「電車に駆け込まないでください!」
思いっきりアナウンスされていた。
アハハハハ…。
が、
足業の父、
まったく動ぜず。
いや天晴れぱれ。

・悲恋ありホテル予約をキャンセルす  野衾

愛は

 

・寒き日は近くで食すランチかな

二十日の金曜日から始めて
この連休、
一日一本のペースで四本の映画を観ました。
(金)『マイネーム・イズ・ハーン』
(土)『ルパン三世 VS 名探偵コナン THE MOVIE』
(日)『マンガル・パンデー』
(月)『かぐや姫の物語』
『マンガル・パンデー』は、
『きっと、うまくいく』で主役を務めたアーミル・カーンが、
こちらでも主役を演じています。
『ルパン三世~』は近所のひかりちゃん、りなちゃんと。
ストーリーは息もつかせぬ展開ながら、
ちょっと気になる箇所がありました。
それはルパンが発する「ふ~じこちゃ~ん」
忘れていましたが、
ルパンの声は、
山田康雄でなく栗田貫一。
“クリカン”に変ってから、
もうずいぶん経つのでしょう。
二人よく似ているので、
かえって違いが際だつのかもしれません。
どっちがどうだというつもりはありませんが、
ただ「ふ~じこちゃ~ん」の発声を聴き、
この「ふ~じこちゃ~ん」には
少し、
でなく、
大きな違和感を覚えました。
大げさに言えば、
愛が感じられない。
山田の「ふ~じこちゃ~ん」は、
それが発せられるたび、
ルパンも男だなぁ、
馬っ鹿だなぁ、
しょうもねえなぁ、
と思ったものでしたが、
クリカンの「ふ~じこちゃ~ん」にそれを感じない。
ちっちゃなことだけど、
大事とも思え。
鼻からのヌケが足りないのか、
それともやりすぎなのか。
山田の「ふ~じこちゃ~ん」から、
わたしは愛はノイズでもあると知らされた。
それは、
大盗賊としての生き方にブレを生じさせるけれど、
それによりルパンの性格描写は
さらに深みを増す。
人間の弱さ、
可愛さをふくめ、
「ふ~じこちゃ~ん」を聴いていたのだと、
今回あらためて感じました。
四日で四本観た映画、
共通するテーマは「愛」
でした。

・考えず手のみ動かす師走かな  野衾

あと一週間

 

・師に倣ひサラリーマンも走りけり

今日が二十日ですから、
二〇一三年も残すところ一週間ほどとなりました。
弊社は、
今月二十八日から
来月五日までお休みをいただきます。
年賀状の宛名書きは、
下手だなぁ
下手だなぁと、
自己嫌悪に陥りがちになりながら、
それでも、
のこり十枚ほどのところまでやってきました。
なんの拍子か、
たま~に、
すこし上手に書けたかな
と思えるものもあり、
そういうときは、
やや楽しい気分に浸ります。
さて今年もいろいろありました。
思い出せないぐらい。
この日記をさかのぼれば、
事実は思い出すことができますが、
そのときの気分までは
完全には思い出せません。
わたしは二度と戻らない!
というタイトルの、
タデウシュ・カントールの芝居を観たのも
はるか昔になりました。

・曇天や雪降る前の泣きの顔  野衾

下手なりに

 

・身が縮むナンバーワンの寒さかな

年賀状書きの季節がやってきました。
宛名も裏の短文も、
下手なりに自分の字で、
つまり直筆で書いています。
下手だなぁ、
つい
つぶやきが洩れ出ます。
いろいろ試します。
たとえば。
詩人の長田弘さんの場合、
「弘」の弓とムがすごく離れており、
なんだかかわいく、
ゆったりのびのびしていて美しい。
ので、
三浦の「浦」のさんずいと甫を
思いっきり離してみるも、
それほどかわいくなく、
美しくもない。
はたまた、
ドイツ文学者でエッセイストの池内紀さんの字は、
これまたすこぶるかわいい。
「へ」の字がほぼ「一」に近い。
今は慣れたので、
すぐに「へ」とわかる。
真似したくて、
自分の文章にも「へ」を使おうとするも、
なかなか「へ」を使う場面に出くわさない。
ん~。
長田さんの字も、
池内さんの字も、
お人柄、
文章と相まってのものであり、
真似して真似できるものでない。
とほほなのであります。
下手なりに謙虚に、
思い切って
大胆に書くしかありません。

・停留所にナマ脚居たり十二月  野衾

谷川健一さん

 

・目だけ出し完全防備の師走かな

写真集『九十九里浜』を出したとき、
ある出版社の編集者から、
写真集を見に訪問したい旨の電話がありました。
民俗学者で歌人の谷川健一さんから、
あれはいい写真集だから見ておくようにとおしえられ、
それで、とのことでした。
来社した女性編集者は、
しばらくページを繰って眺めたあと、
一冊買って帰りました。
それが谷川さんとのそもそものご縁でした。
その後、
専務イシバシは、
彼女の故郷である九十九里浜に、
谷川さん、編集者、出版社の社長と同行し、
『九十九里浜』の写真家・小関与四郎さんの車で
一日、旅をしたのでした。
そのご縁で、
弊社からは『古代歌謡と南島歌謡 歌の源泉を求めて』
『谷川健一全歌集』の二冊を出しました。
先週、
ある雑誌を見ていたら、
谷川さんの追悼号になっており、
特集の冒頭ページに
ナマ原稿の写真が掲載されていました。
見たことのある原稿。
それは、
春風社の十週年を記念する目録新聞のために、
谷川さんからいただいたものでした。
たしかファックスで頂戴したはずですから、
元の原稿が
お手元に残っていたのでしょう。
もう四年前になります。
「春風に寄す」と題し送られた歌は以下の通り。

○人生の最後の舞台を下(おり)しわれ春風(はるかぜ)せめて花吹雪せよ

○獄窓より柳絮吹き入り春の風生(せい)の息吹きのよろこび伝ふ

○春の風吹く日はかなし突堤にのぼれば見ゆる常世の桜

○公園の古きベンチに春風(はるかぜ)と無為楽しむを日課となせり

○夜明けの海に春風(はるかぜ)わたり雑魚の群湧き立ちにけり銀のかがやき

歌をくださったのが二〇〇九年の春。
歌に歌われた時をかさね、
今年八月二十四日に他界されました。
ご冥福をお祈りします。

今度はDVD

 

・河豚鰭の酒舐め独り忘年会

今年ハマりにハマったインド映画
『きっと、うまくいく』(原題:3 Idiots)
を、
今度はDVDで観ました。
ひかりちゃん、
りなちゃん、
ママさん、
写真家ハッシー、
家人、
わたしの六人。
インド・ネパール料理店ピーパルツリーから
チキンカレー、
エビカレー、
豆カレー、
ナンなど取り寄せ、
ピザ店からは特大のピザ、
さらに、
クラッカーまで用意し、
我が家でマサラ上映とあいなりました。
映画館には敵いませんが、
気の置けない友人・知人と
好きな映画をいっしょに観るのは、
しかも飲み食いしながら、
映画の進行に合わせツッコミを入れたり、
何度も観ているのに
笑ったり、
目頭を熱くしたりと、
なんとも楽しく
それは充実した時間でした。
六人とも映画館で既に観ているので、
それぞれにとっての
“クラッカーポイント”があり、
パン!と鳴るたびに、
なるほど、
ひかりちゃんはここで鳴らしたか、
りなちゃんはここか、
ハッシーはやっぱりここだよな、
と、
一人合点するのもまた楽し。
言わずもがなのことではありますが、
この映画には感動があります。
映画っておもしろい!
いやぁ、
インドって深いなぁ!!

・XL土俵のごときピザを取る  野衾

観れば観るほどインド映画

 

・閑けさや時を剥がして雪積もる

2011年に公開された
インド映画『神さまがくれた娘』を観ました。
来年四月、
横浜市中区若葉町の
ジャック&ベティでも上映されるらしく、
そのチラシに、
「6歳児の心を持った父と5歳の娘、
ひたむきな親子の深い愛。
南インドの牧歌的な自然を背景に描く感動作!」
と紹介されています。
キャッチコピーにあるように、
知的障害のある男とその娘
という設定の物語で、
設定からして、
波乱万丈が予想されます。
二時間半ぐらいの映画でしたが、
前半一時間半で、
2013年暮れの日本から
極上映画がつくりだす物語世界へ
徐々に誘い込まれ、
後半の一時間は
物語にどっぷりと浸かり、
最後のほうは、
涙涙で、
スクリーンが曇ってしまいます。
どんぶり一杯分ほどの水分が落ちた。
ほんと。
いやぁ、
インド映画の底力に感服。
観れば観るほど、
インド映画の凄さに驚かされます。
インド映画の面白さは、
インドの懐の深さの証なのでしょう。
来年四月、
ジャック&ベティでまた観よう!

・車窓より遥か野山を吹雪けり  野衾