谷川健一さん

 

・目だけ出し完全防備の師走かな

写真集『九十九里浜』を出したとき、
ある出版社の編集者から、
写真集を見に訪問したい旨の電話がありました。
民俗学者で歌人の谷川健一さんから、
あれはいい写真集だから見ておくようにとおしえられ、
それで、とのことでした。
来社した女性編集者は、
しばらくページを繰って眺めたあと、
一冊買って帰りました。
それが谷川さんとのそもそものご縁でした。
その後、
専務イシバシは、
彼女の故郷である九十九里浜に、
谷川さん、編集者、出版社の社長と同行し、
『九十九里浜』の写真家・小関与四郎さんの車で
一日、旅をしたのでした。
そのご縁で、
弊社からは『古代歌謡と南島歌謡 歌の源泉を求めて』
『谷川健一全歌集』の二冊を出しました。
先週、
ある雑誌を見ていたら、
谷川さんの追悼号になっており、
特集の冒頭ページに
ナマ原稿の写真が掲載されていました。
見たことのある原稿。
それは、
春風社の十週年を記念する目録新聞のために、
谷川さんからいただいたものでした。
たしかファックスで頂戴したはずですから、
元の原稿が
お手元に残っていたのでしょう。
もう四年前になります。
「春風に寄す」と題し送られた歌は以下の通り。

○人生の最後の舞台を下(おり)しわれ春風(はるかぜ)せめて花吹雪せよ

○獄窓より柳絮吹き入り春の風生(せい)の息吹きのよろこび伝ふ

○春の風吹く日はかなし突堤にのぼれば見ゆる常世の桜

○公園の古きベンチに春風(はるかぜ)と無為楽しむを日課となせり

○夜明けの海に春風(はるかぜ)わたり雑魚の群湧き立ちにけり銀のかがやき

歌をくださったのが二〇〇九年の春。
歌に歌われた時をかさね、
今年八月二十四日に他界されました。
ご冥福をお祈りします。