スーパー爺

 

・ゑのころや停車場に立つひともなし

しのぎやすい季節になりましたので、
近所のまるちゃんを誘い、
家人と三人で、
英連邦戦死者墓地から児童遊園を散策。
墓地は、
日本の土地でありながら、
作り手が変わると
こうも違うかとびっくり。
墓石は、
日本のものとは異なり、
大き目の弁当箱のような感じです。
したがいまして、
視界を遮るものがなく、
墓地全体が整然とし
静かな空気を湛えています。
そこから十分ほど歩くと児童遊園。
セブンイレブンで買ってきたおにぎりと
カップ味噌汁でお昼に。
お湯だけ家で沸かし水筒に入れてきました。
風を浴び空を見上げ
俳句などつくって遊んでいると、
妙に体の締まった爺さんが
ランニングをしたり、
鉄棒にぶら下がり、
ひょいひょい懸垂をしたりしています。
かつてテレビコマーシャルで、
大車輪をするおじいさんを見たことがありますが、
あれはこの人だったのでは?
と思えるぐらい、
身が軽そうで、
キレがあり、
これは只者ではないな
と三人、
目をしばたかせ。
もっと見ていたかったのですが、
きりがありませんから
ほどほどところで切り上げ家路につきました。

・秋の野をスーパー爺回りけり  野衾

抽斗

 

・道逸れて風にしな垂る芒かな

会社の角に置いてある
キャビネットを片付けていたら、
抽斗のなかから
古い写真がひょいと現れ、
ハッとしたり
ギョッとしたり。
一昨日お目にかかった
O先生の写真もありました。
いつも若々しくいらっしゃるので、
年をとらないみたいだなぁ
と思っていますが、
十数年前に撮った写真を見ると、
あたりまえですが、
やはり今とは違っています。
ある大学の女子学生が社を訪ねてきたとき、
みんなでカラオケに行き
歌っている写真もでてきました。
専務イシバシも武家屋敷もわたしも若い。
女子学生はその後、
大学院に行き、
今はフランスにいて、
ヨーロッパ中世美術の研究に余念がありません。
抽斗は、
物をしまうときは、
何の気なしに
ぽんぽん入れて置くだけですが、
ときが静かに降り積もり、
やがて
しまった物を
忘れてしまう頃おい、
いつの間にやら
玉手箱に変化発展を遂げ、
こちらはだれもみな
例外なく、
浦島太郎になっていくようです。

・台風圏酢橘持ちたるひと来る  野衾

横浜高島屋

 

・野分中傘の骨骨怒髪天

いつ行っても気持ちいいのが横浜高島屋。
気持ち悪いのが貧乏ゆすり。
待ち合わせの時刻より少し早く着いたので、
正面玄関を入ったところのソファに腰掛けたところ、
となりの爺さんが
一定の間を置いて激しく貧乏ゆすり。
文庫本に目を落としていた視界にそれが入り、
ちらと顔を覗くと、
眉毛も白髪のおとなしそうな爺さんで。
それなのに、
貧乏ゆすりは、
まるで夜露死苦を飛ばす不良少年並み。
ひざ下が別の生き物。
やがて老妻登場し、
やおら立ち上がりいっしょに外へ。
ははあ。
奥さんが買い物するのを待っていたのだな。
ほどなくO先生登場。
エスカレーターで六階へ。
降りた階にいた店員に
「資生堂パーラーどちらでしたっけ?」
笑顔で「はい。こちらです」
すぐに歩き出して案内してくれます。
「何度来ても覚えられなくてスミマセン」
「いえ。外はまだ降っていますか?」
「降ったり止んだりですね」
わたしが長靴を履き、
資料をビニール袋に入れているのを見ての言葉だったのでしょう。
この店の人は
どなたに限らず、
こういう対応をしてくれます。
行き先を尋ねると、
その場を動かずにいて
指先で方向を示すことをしません。
スッと体ごと動かし案内してくれます。
それがなんとも気持ちいい。
*
橋本照嵩『石巻かほく』紙上写真展
の二十九回目が掲載されました。
コチラです。

・重なりて抜きつ抜かれつ野分雲  野衾

ある連想

 

・台風来蟷螂のごと身構えり

梅雨の時期よりも雨が降る今日このごろ。
地下道を歩いているわたしの目の前を
ショートカットの
痩せぎすの女性が歩いておりました。
歩くスピードがほぼいっしょ。
追い抜きもせず、
離されることもなく。
女性から二段離れて昇りエスカレーターに乗りました。
うなじが目の前にあります。
ん。
似ている。
たしかに似ています。
口に出しては言えないけれど、
刈り上げにしたところから
強《こわ》い毛が生えている状態というものは、
毛を毟ったニワトリを、
とくにニワトリの
皮がフニャフニャな首周り
を連想させずにはおきません。
さらに。
父がまだ子どもの頃。
ニワトリを絞めて毛を毟ったところ、
絞め方が充分でなかったのか、
裸にされたニワトリが
死に物狂いになって逃げ出した
のを
父の父であるトモジイが
目の当たりにし、
眼を回し、
腰を抜かしたのだとか。
そんなエピソードまで思い出されます。
エスカレーターを降り、
女性は野毛方面へ。
わたしは
セブンイレブンの横を通って
本町小学校のほうへ向かいます。

・台風圏低木に鳥鳴いてをり  野衾

電子辞書

 

・鹿の目のぎんがぎんがを踊りけり

このごろはもっぱら電子辞書。
なにがいいって、
まず
字がデカい。
これはほんと助かります。
紙の辞書は
大辞林をつかっていますが、
重いし字が小さい。
机に向かっているときはいいのですが、
机のないところで本を読んでいて
辞書を見たくなり本棚から大辞林を取り出すと、
椅子の上であぐらをかき、
その真ん中に
辞書を置いて見るようになります。
さらに、
字が小さいものですから、
メガネを外し腰をぐっと曲げ、
敵に見つからぬよう隠れるような姿勢をとり、
眼で目的の字面を
舐めるように追いかけます。
それでも見えないときは、
よっこらしょと
その場をいったん離れ、
机の引き出しから拡大鏡を取り出し、
みたいな、
それはそれは
たいへんな労働量となってしまいます。
そこいくと、
電子辞書はいと便利。
「かんたんサーチ」なるものがありまして、
しらべたい単語を入力すると、
その単語について説明のある辞書を全部、
もちろん収載されている辞書
ということになりますが、
ピックアップしてくれますから、
いやはや
なんともスグレモノ!
電子辞書様様であります。

・ひょんひょんと手拭い食みし鹿踊り  野衾

分厚い本

 

・湯を出でて暗き家路や虫集く

子どもの頃から、
どちらかというと分厚い本が好きでした。
農家のこととて、
本のない環境でしたから、
余計にそういう好悪が育まれたのかもしれません。
初めて買った分厚い本は、
岩波書店の広辞苑。
分不相応なぐらい厚かった。
重かった。
机の上でページを開くだけで、
少しえらくなった気がしたものです。
高校に入ったら、
祖母が、
むかし勤めていた旅館の女将さんから
二宮金次郎像をもらってきたので、
もっとえらくならねばいけない
気がして、
本を読みました。
薄い本より、
分厚い本のほうが
えらくなりやすい気がした。
さて、
これから読もうとしている分厚い本は、
小西甚一の『日本文藝史 Ⅴ』1142ページ。
これは分厚い!
ふつうにポンと立ちますからね。
ほら。
しかし、
これを読むためには、
Ⅰ~Ⅳを読む必要がありまして、
まずそちらから
始めなければいけませんが、
そちらはどの巻もそれほど分厚くありません。
Ⅴのみ千ページを超えます。
最終巻のこのボリューム、
しっかり勉強しなさい
と気合を入れられているような、
そんな分厚さです。

・露天風呂裸の腹に秋の雨  野衾

真夜中の雄叫び

 

・出航の船の霧笛や秋を告ぐ

句会の夢を見ました。
野外でしたから吟行ですかね。
冨士眞奈美さんや吉行和子さんもそこにいて、
だれもだれも、
いっしょうけいめいつくっています。
と、
どこからか、
見知らぬ鉤鼻のいかにもな老婆が現れました。
フードをかぶり、
ごつごつした杖を突いていたりして。
あ!
魔法使いのおばあさん!
おばあさん、
苦吟しているわたしのほうへ
まっすぐゆっくり向かってきます。
いやだなあ! わずらわしいなあ!(←こころの声)
さらに近づいてきて、
木の枝のようなる指で
わたしの顔を指し、
「そんなに眉間に皺を寄せてもいい句はつくれまいて。
ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっ…」
笑い方まで
魔法使いの定石どおり。
もうもうわたしは頭にきて、
立ち上がり、
「ドゥア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…」と大音声。
声の大きさだったら、
魔法使いにだって負けはしない。
ドゥア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…
「どうしたの? だいじょうぶ? うなされているよ!」
眼が覚めました。
となりで寝ていた家人が
怪訝そうにわたしを見ています。
「怖い夢でも見たの?」
ふむ。
あれを怖い夢といっていいものか。
魔法使いのようなる老婆を追い払うため、
雄叫びを発したのは
わたしであって。
「いや。すまない。スミマセン。寝ましょう」

・ゆっくりと石の階段秋黴雨  野衾