方言の味 1

 

帰省して楽しいことの一つに、ずっと、ふるさとのことばで話ができる、
それがあります。
帰省の最終日、
弟がクルマで秋田駅まで送ってくれたとき、
「えじくされ」ということばが話題になりました。
無明舎出版からでている秋田県教育委員会編の『秋田のことば』にも載っています。
『秋田のことば』に掲載されている表記では、
「えじくされ」の「え」と「じ」のあいだに小さい「ん」が入っています。
漢字で書けば「意地腐れ」。
『秋田のことば』では、
「他から見てあまり感心できない意地の張り方をする人を批判的にいう語」
と説明されている。
この辞書にもあるとおり、
けして人を褒めるときに使うことばではありません。
わたしにとっても弟にとっても、
ふだん使いのことばですから、
共通語でいうところの「意地っ張り」の基本的な意味はもちろん知っています。
しかし、
クルマのなかで、
家人も交え三人でひとしきり「えじくされ」で盛り上がったとき、
弟が、ふと、
「えじくされ」は、百パーセント否定的な、
マイナスの価値だけのことばではないと思うよ、
と語り始めました。
「七割三割ぐらいで、積極的な価値をふくんでいる」
それを、
共通語でなく秋田のことばで表現した。
わたしは、こころのなかで唸っていました。
まったくそのとおりと思ったからです。
意地が腐っているだけの意味ならば、
マイナスの価値に塗りこめられていることになりますが、
三割はプラスの価値を帯びている…。
要するに、
根性が座っていて、他からの批判や非難、叱責や暴力にも動じない、
揺るがぬ信念を持っている、
そういったニュアンスを確かにふくみ、
底のほうでむしろいぶし銀のように光っている、
それが「えじくされ」。
方言の味わいを改めて確認しました。

 

・六十年あつといふ間の雪解川  野衾