ロックのルーツ

 

理想はバッファロー・スプリングフィールドだということをふたりは理解していた。
けれども、
そのサウンドを単にコピーするだけではない、
しっかりと深く張られた根のようなものを見つける
ことが新たなバンドには必要だった。
それにはいくつかのヒントがあった。
細野が念頭に置いたのは、
バッファロー・スプリングフィールドのセカンド・アルバム『アゲイン』
の裏ジャケットに記された、膨大なサンクス・クレジットだ。
オーティス・レディング、ハンク・ウィリアムズ、ベンチャーズ、ジミ・ヘンドリックス、
エリック・クラプトン、
ビートルズ(ナーク・ツインズ&ジョージ、リンゴと記載されている)、
バーズ、フランク・ザッパ、ストーンズ、ドノヴァン、ジェファーソン・エアプレイン、
ロバート・ジマーマン(ボブ・ディラン)――。
影響を受けたミュージシャンの名前が七十とちょっと羅列されるなかに、
細野はカナダの政治家(レスター・B・ピアソン)や
イギリスの画家(ジョージ・ロムニー)の名が混じっているのを見つけた。
そしてそういった強固な土台を自分たちも築かなければならないと考えた。
音楽的なものだけではない、
自分たちの本質的なルーツと言える土台を。
(門間雄介『細野晴臣と彼らの時代』2020年、文藝春秋、pp.98-9)

 

2013年に亡くなった著名な民俗学者、地名学者で
作家、歌人でもある谷川健一さんと対談する機会があったとき、
対談本番の前に、
谷川さんの著書について感想を述べたところ、
谷川さんがいたく喜んでくださり、
笑いながら、
いまの歌人たちが、じぶんの短歌が掲載された雑誌は見るけれど、
ほかの本をあまり読まないと仰った。
『細野晴臣と彼らの時代』をおもしろく読んでいて、
そのときのことを思い出した。
どのジャンルでも、
個性はだいじだろうけれど、
ほんものの個性があるとすれば、
それは根を持っているということかもしれない。
たとえば、
バッファロー・スプリングフィールドがその例であり、
細野晴臣、大瀧詠一、松本隆、鈴木茂の四人で構成された日本のロックバンド、
はっぴいえんど、
ということになるだろう。

 

・天高し千歳の農の仕事かな  野衾