ことばの海

 

きのうにひきつづき、義母と家人の電話から。
家人から間接的に聞いた話によれば、
義母は会話のなかで、
「本をパッと開いて、つと見たら、三橋美智也のことが書いてあり…」
ということばがでてきたと。
この「つと見たら」の
「つと」、
義母の用法では、「つ」にアクセントがあるらしい。
現在の国語辞書にも載っているけれど、
わりと由緒正しきことばのようで、
たとえば、
枕草子の第百二十二段に、
「げに、いとあはれなりなど、ききながら、涙のつと出で来ぬ、いとはしたなし」
とあり、
「急に、さっと」
の意味で使われているから、
義母の使い方に近い。
ことばは生きて、
とどまることなく変化していき、
齢を重ねたひとの嘆きの対象にもなるけれど、
その一方で、
古くからあることばが息づき、
日常的になお使われている場面に接すると、
なんとなく気持ちが落ち着き、
うれしくなる。
ことばの海の波頭の下には、
深い青をたたえてどっぷりと静かな水が流れている。

 

・苦瓜苦し後悔に二つあり  野衾