日本書紀の怪

 

岩波文庫版『日本書紀』をようやく読み終わりましたが、
全体を通して、
それほど面白いものではありませんでした。
比較する意味で振り返れば、
司馬遷の『史記』が面白いといっても、
世家と列伝の篇が面白いのであって、歴代帝王の事績を記した本紀は、
わたしにとって、
それほど面白いものではなかった。
日本書紀は、
史記でいえば本紀にあたるものですから、
面白くないのは当然かもしれません。
ただ、
わたしの興味からいって、
了解したのは、
日本史を動かしてきた燃料は稲作である、
ということ。
日輪のたぐいなき愛が全篇に響いていると感じました。
全体としては、
そんなことを思いながら読みましたが、
武烈天皇の記事と同様に、
最後に近く、
持統天皇の篇で一か所、
なんだこれは、
と目をみはる文言に出合った。
岩波文庫『日本書紀(五)』238ページ。

 

是歳《ことし》、蛇《をろち》と犬《いぬ》と相交《つる》めり。
俄《しばらく》ありて倶《とも》に死《し》ぬ。
(《 》はルビ)

 

ヘビと犬が交尾して、しばらくして、両方死んだ。
この記事が、前後となんの脈絡もなく(と、わたしには感じられた)
表れます。
しかも、これに関してなんの説明もありません。
なので、かえってギョッとし、
ひょっとしたら、
こういう事実があったのかも、
いやいや、
そんなことはあり得ない、
いや待てよ、
と、
しばし考え込んでしまうことに。
それとも。
ヘビと犬を、素直に、動物のヘビと犬と思って読んではいけないのか。
分かりません。

 

・あまてらす天の下なる稲つるび  野衾