語りの妙

 

現在埋め立て新田が、
一望ほとんど見はるかすことのできないような広い面積を機械的に
一遍に灌漑しておるのを見つけておりますために、
昔の日本の本田の耕作の仕方について、
あるいは疑ってよく知らない人が、
山村の人以外にはあるかもしれませんが、
小さな本田で上から落ちてくる水を順々にうけて、
なるべく上から無駄なしに使わせるという溝道灌漑が、
おそらく総面積の半分も、
三分の二も
占めておった時代があるのじゃないかと思います。
(柳田国男・安藤広太郎・盛永俊太郎ほか『稲の日本史 上』1969年、筑摩書房、p.79)

 

引用した箇所の講演は、
柳田國男が昭和28年2月に行ったもの。
わたしがまだ若いころ、
筑摩書房の柳田國男全集を片っ端から読んだ時期がありました。
いま改めて稲の歴史に興味が湧き、
古書で求めた『稲の日本史』を読んでいるところですが、
内容もさることながら、
語り口調がいかにも柳田さんで、
棚田の水が上の田から順々に、ちょろちょろと、下の田へ落ちてくるような、
そんな呼吸を懐かしく嬉しく感じます。

 

・天と地とこの壮大の稲つるび  野衾