物の楽しさ

 

義理の母から家人に電話がありました。
わたしは本を読みながら、片耳で家人の受け答えを聴いていましたが、
どうやら、
送った拙著『文の風景 ときどきマンガ、音楽、映画
のお礼のようです。
家人、
母との会話をしばし置き、
「おかあさん、分厚い本だこと、読みづらいんではないかしら、と思ったら、
開いたら180度、平らになるじゃない、びっくりしちゃった、だって」
と話の一端を告げてくれました。
それを聞いて、
嬉しくなりました。
たとえば、
本を読んでいてほかの用事を急に思い出したり、
トイレに立ったりすることが間々ありますが、
そんなとき、
読んでいた本に栞を挟んだり、
栞がないときには、
読みかけのところを見失わぬよう本を裏返しにし、
開いたまま伏せたりします。
が、
こんかい、
そういう手間が要らぬよう、
また、
六〇〇ページを超える本ですから、
それなりの重さがありますので、
手に持たなくても、
机の上やテーブルの上に本を置き、
指先で、開いた本の両端をちょんと押さえるだけで読み進められるよう、
コデックス装を採用したことを、
義母が、驚きを以て楽しんでくれたと思いました。
まことに「本は物である」。
七月に亡くなられた装丁家の桂川潤さんにもお見せしたかった。
昨日、
依頼している業者の倉庫に入りましたので、
明日以降、
市場に持ち込まれるはずです。
いったん告知したのに、製作が延び延びになり、
予約注文くださった方には申し訳ないことでした。
届きましたら、
そういうことですので、
開いたところから読んでいただければ嬉しいです。

 

・秋の雲別れしひとの懐かしき  野衾