秋田の父から電話があり、
叔父の勤が亡くなったことを知った。
享年八十二。
勤と書いて、
つとむ。
標準語ならフラットに読むはずだが、
秋田では、
バナナのアクセントが三文字の真中、「バ」のつぎの「ナ」にあるように、
叔父の名前は「と」にアクセントがある。
つとむ。
父はぽつりと、
「きょうだいのうち、これで、三人亡ぐなってしまったハ」
わたしは、
かけることばを失った。
「三人亡ぐなってしまった」なら、
ちがっていたかもしれない。
最後に発した「ハ」にこめられた父の万感の思いに胸を打たれた。
叔父は歌が上手かった。
かつて友人のミュージシャンを秋田に同行した時、
叔父の歌を聴いて、
しろうとの上手さではないと言った。
叔父は若いころ、
歌手になりたくて東京に出たことがあった。
父はそのとき親代わりとして東京を訪れ、
部屋探しに付き合った。
叔父は歌手にはならなかった。
営林署にながく勤めた。
生まれて間もなくの病気が原因で障害を持ってしまった長男のことを、
いつも思っていた。
数年前、
親戚一同でカラオケのできる店に集まったとき、
叔父に寄り添って歌う息子の姿に、
そこにいるみんなが目頭を押さえた。
長男も、
叔父に似て、歌が好きだ。
叔父の住まいのすぐそばに神社があった。
うっそうとした林のなかに蟬の声が響いている。
ちいさな子供がしゃがんで、
なにか探しているようだ。
・文字以前社にひびく蟬しぐれ 野衾