ことばのかいしゃ

 

きのう、
だいじなメールを送る前に、見て欲しいと、
ある編集者が、
わたしのところにやってきました。
A4判のコピー用紙に出力したメールに目を通し、
気になるところに朱を入れ、
それから何度か読みかえしこれでよしと思ったので、
編集者を呼んで用紙を返しました。
校正をしながら、
目の前の文章を読んでいるうちに、
それを書いた彼女のこころが見えてくるような気がしました。
胸が熱くなりました。
わたしが入れた朱は、
こころの輪郭を少しだけはっきりさせ、
文章にこめられたこころを、
相手の方にきちんとわたすためのものだったかと思います。
朱を入れたことが、
その目的にかなっていたかどうかは、
メールを読んでくださる当の本人しか分からない
ことですが、
いつもしている類のことながら、
深く感じるところがあり、
きょう、ここに書いて残しておこうと思いました。
言わずもがなのことながら、
こころは見えません。
ことばをととのえていくことで、
ようやくそのかたちが見えてくるような気がします。
こころが初めから見えるなら、
ことばは要らないかもしれません。

 

近江の海 夕波千鳥 汝が鳴けば 心もしのに いにしへ思ほゆ

 

柿本人麻呂によって詠まれたつとに有名な歌、
万葉集巻三にあります。
声に出して読むことで
ゆったりとした韻律とともに、
歌にこめられたこころが感じられるから、
すばらしいのだと思います。
さて、このブログを始めてから二十年が経ちました。
前日あったことのなかで印象に残ったこと、
そして、
そこに生じたこころをことばにして見えるようにする
ために書いてきたのでもあったかと、
思います。
こころをかたちにすることばのかいしゃ。
とじぇねわらしは、
そんなかいしゃをつくってきたことになりそうです。

 

・梅雨ごもり眼を上ぐ先の尖り屋根  野衾