読む奥義

 

漢字を通して「東洋」を引き寄せようとする白川さんと
万巻の精読から古代中国を知ろうとした中江丑吉との関わりは、
しかしこれはたやすく新聞記事などになる話でない。
書物を読む奥義について、
白川さんは三つのことを挙げた。
一、志あるを要す。
二、恒あるを要す。
三、識あるを要す。
この心構えにおいて、白川さんと中江丑吉には相通ずると思うのである。

 

引用した文章は、
『白川静著作集 第10巻』に折り込まれている月報の文章。
著者は、朝日新聞編集委員(当時)の河谷史夫さん。
文中の中江丑吉というひとは、
あまり知られていませんが、
大正・昭和期の中国学者で、中江兆民の長男として大阪に生まれました。
七高から東京大学に入学。
卒業後、北京に渡り、
ただ書物ばかりを読んで一生を暮らした。
朝の四時に起きて読書に没頭することを自身に課していた中江さんと、
肩の力が抜けた対談の折に、
じぶんの仕事を離れたならば、
ゆっくりと
『大航海時代叢書』を読んでみたいと語った白川さんには、
河谷さんが記すとおり、
共通した気概を感じます。

 

・染め布の揺れてとなりの南風(みなみ)かな  野衾