伊勢佐木書林

 

 十和田湖や無音の朝を月過ぎぬ

高校の教師を辞め、
東京の出版社に勤めようとしたとき、
大量の本を売りました。
二十三年前のことです。
伊勢佐木町のオデオンの六階に
先生堂という古書店があり、
そこの人が車で引き取りに来てくれました。
二年前、また大量の本を売ることに決め、
先生堂に電話したところ、
すでに店は無くなっていました。
ところが、
そこに勤めていた方が独立し、
新たに古書店を起こしたと知り、
もしやと思い連絡してみたところ、
二十三年前、わたしの本を引き取りにきた方で、
飯田さんといいます。
わたしの名前まで憶えていました。
大量の本を彼に売り、
そのお代はボルダーのプリアンプに化けました。
昨日、
昼の食事がてら、訪ねてみました。
お客さんが数名、棚差しの本の背文字を眺めています。
わたしの顔を見、
いたずらっ子のように、はにかみながら、
「三浦さんの本、アマゾンで買って読みましたよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「とくに前に勤めていた会社が倒産し、
どうしようというあたり、
ドキドキしながら読みました」
「…………」
「二百三十円になります」
本をカウンターに差し出した人がいて、
飯田さんとの会話は途切れました。
お客さんが離れた後で、
隣にいた奥さんを紹介してくれました。
わたしは、菅江真澄の随筆集を買い、
外へ出ました。
飯田さんは本好きの人です。
関内のほうから伊勢佐木町に入り歩いていくと、
間もなく左手に有隣堂本店が見えてきます。
そこを越え、さらに歩くこと二分、
右手に伊勢佐木書林はあります。
本好きの方は、ぜひ立ち寄ってみてください。
すてきな古本屋さんです。

 秋待つや湖面に吸はる瞰湖台

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