小説はキャラ

 

 さびしさを連れてここまで秋の雨

ただいま白井喬二の『富士に立つ影』を読んでいますが、
ときどき声を出して笑うので、
家人が気持ち悪がっています。
登場人物たちの個性がどれも際立っており、
なかでも熊木公太郎(くまき・きみたろう)
の天衣無縫、無手勝流な性格は並大抵でなく、
たとえば、
城を築くための審議に流派を代表して
日光に赴いたその日、
土地の外れに住んでいるやくざモノに
手篭めにされようとしていた遊女から、
(この遊女、監禁され四日も何も食べていなかった)
「たすけてください!」とせがまれ、
「そうか」と言って助け出すと、
また遊女が、
「腹が減って歩けません」と言うから、
「そうか」と言って、背中に負ぶってしまう。
これから公儀の務めに就こうとしている侍が、
遊女を背中におんぶし、帯で結わえて、
すたこらさっさと走り出したから、たまらない。
やくざの親分、怒った怒った!
「てめー。このやろー。ふてえ野郎だ」
公太郎、遊女をおんぶしながら、
片手でチャンチャンバラバラ。
これが強い強い。
親分も子分どもも、あっという間に蹴散らし、
日光の町に入った。町中大騒ぎ。
それもそのはず、
立派な侍が、昼日中、
有名な遊女をおんぶして
町を堂々と歩いていくのだから…。
公太郎、遊女の住む家に彼女を送り届け、
「では、さようなら」
何事もなかったかのように、
指定されていた自分の宿に向かった。
く~。かっこいい!
というわけで、
『富士に立つ影』面白いです。
富士見書房の時代小説文庫で七冊。
絶版のようですが、
アマゾンのマーケットプレイスで買えるようです。

 秋雨や祖母の笑顔のなつかしき

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