昭和の春

 

・停留所春を眺めてバスを待つ

shumpu photo storyが春仕様になりました。
撮影は橋本照嵩さん。
弊社ホームページのトップ、
いちばん上、
横長の写真がそれです。
1980年ごろの写真が主ですから、
いまから36年前のこと。
フィルムですから色もらしく褪せていますが、
着ている物、髪型、帽子、祭り、弁当を食べる人びとの姿、頬かぶりの手拭、
明るく開放的な笑顔まで、
どれもなんとなく昭和だなぁと。
どの写真の空間に、
渥美清の寅さんがでてきてもおかしくない。
ぴたりと収まる気がします。
てことは、
寅さんも、
昭和を旅し生きた人だったのでしょう。
遠くなるのは
明治ばかりではなく、
どの時代もやがて遠くなり、
ふるさとのごとく、
思ってみたり、
悲しくうたってみたりしますが、
子を思う親のこころ、
弟子を思う師のこころは、
時代に関係なく
変らずあると思わされます。

・雨を踏む音も華やぐ春となる  野衾

クスリになり毒になる

 

・夢のなか欠くるものなし春野かな

中条省平さんは学習院大学の教授ですが、
わたしにとりましては、
安原顯さんが始めた創作学校の
恩師であり、
それがご縁で
今もお付き合いいただいております。
2003年に『名刀中条スパパパパン!!!』
2005年に『ただしいジャズ入門』を弊社から上梓、
現在『春風新聞』に
「翻訳ピンチ!」のコラムを継続ご執筆中。
その中条さん、
小説も音楽も映画もマンガも好きで、
しかもかなり好きで、
加うるに中条さんの紹介と評論は、
もはやひとつの芸といってよく、
したがいまして、
紹介されているものを、
読まずに聴かずに見ずに済ますことは甚だ困難になります。
前置きが長くなりました。
2015年に幻冬舎から刊行された
中条さんの『マンガの論点』新書版776ページ、
読み始めのころ、
ここで一度紹介したと記憶していますが、
読んでいると、
胸が熱くなりアタマが沸騰してきて、
つい、
パソコンを立ち上げ、
紹介されているマンガをポチッとクリックしカートに入れてしまうことに。
この本を読んで買ったマンガの数は相当。
ですので一気に読むのは危険です。
まさにおススメ上手!
なのですが、
中条さんにとりまして、
小説も音楽も映画もマンガも、
どうやら、
豊かで生々しいロクでもないこの世界に触れるための
外せないものであるようで、
(「まえがき」でそのことに触れています)
世界に触れたいとの熱が
文章に鋭く深くこめられ、
こもり、
それが読む側に真っ直ぐ伝ぱしてくるのでしょう。
ただ、
そういうクスリにもなり
毒にもなる文章ですから、
熱に浮かされヘロヘロにならぬよう
注意が必要です。

・春暁の床のうちにて雨をきく  野衾

キーンさんの日本文学史

 

・目覚めてもきのふ起きずにけふ起きる

小西甚一さんの浩瀚な日本文藝史を読んだら、
キーンさんのも読みたくなりまして、
文庫版もあるから
車中にちょうどよく、
さて、
と思って読み始めたら、
これがおもしろいのおもしろくないの。
どっちなんだっ、
てか。
この面白さをどう喩えたらいいのか分かりません
が、
たとえば、
地球にいて地球を見るしかなかったのが、
科学が発達し、
縁あって素人が宇宙船に乗り込み、
宇宙から初めて地球を見てみた
的な面白さ
とでもいうのか。
また、
日本人は季節の移ろいを、
ほかのどの国のひとよりも敏感にとらえるのではないか
なんて言われると、
それが日本人によってだったら、
は~そうすか、
あなた世界中を回ってきたとでも言うんスか、
てなもんですが、
キーンさんからだと、
そうなんですかやっぱり、
と、
なんだか嬉しくなってしまいます。
今ではキーンさん
日本人ですが。
漢字だと鬼怒鳴門(きーん どなるど)だそう。
怒鳴ると鬼?
文庫で十八冊、
そうとう楽しめます。

・春眠の蜜なる味の夢うつつ  野衾

喜博と安二郎

 

・雛祭りおさげ髪の娘いま何処

喜博は教育家。
姓は斎藤。
安二郎は映画監督。
姓は小津。
仕事で喜博に関する論考を読んでいたら、
原稿の論旨とは別に、
ふと、
このひと、
安二郎に似ていると思った。
朔太郎がバスター・キートンに似ているようなものか。
ちがうか。
どこがどう似ているか分からないけれど、
ひとの見方寄り添い方
とでもいうのか。
まぁ直感。
ネットで調べたら、
ふたりを並べて論じているものはなさそうなので、
少し時間をかけゆっくり考えてみたい。
片や教育、
片や映画、
相容れない気もするけれど、
そうでもないかも。
具体的なモノのつかみ方、
具体から抽象へ、
イデアへと向かうベクトル、
幻視していたものが共通だったような、
これまた直感。
問いを問うのは楽しい、
生きられる時間。

・鎌倉や雛を飾りし古き家  野衾

明るさにつられ

 

・電線の椋鳥震ふ余寒かな

三月に入り、
朝の日差しがバッと明るさを増した気がし、
あまりむくむくでなく、
むく、
ぐらいな感じで出かけたところ、
風の冷たいこと冷たいこと。
いや~参りました。
毛皮のコートがほしいぐらい。
昼、
蕎麦屋で温かい天ぷら蕎麦
を食べた後、
風をよけながら
近くのコンビにまで歩き、
はい、
ここで問題です。
わたしはなにを買ったでしょう?
正解!
そうです。
ホカロン貼るタイプ。
夕刻から夜にかけますます寒くなりまして、
貼っててよかった!
貼ってなかったら、
寒くて死ぬとこだった、ほんと。

・蕎麦屋にてテレビに見入る寒と温  野衾

なめこ蕎麦

 

・手袋を仕舞ひまた出す時節かな

先日いつもの太宗庵に行った折、
なめこ蕎麦をたのんだすぐそのあとで、
壁に貼ってあるメニューの
とろろ蕎麦
の文字が目に入り、
なめこ蕎麦を取り消しとろろ蕎麦に変更、
と思いきや、
女将さんがやさしげに、
悩ましげに、
「とろろ蕎麦でよろしいん、で、す、か」
と訊くから、
「やっぱりなめこ、いや、そうじゃなく、やっぱりとろろ」
というわけで、
とろろ蕎麦に
その日は落ち着くも、
どうもあの日の判断は正しかったのか、
心もとなくなってきて、
きのう、
あらためて太宗庵に出向き、
正式に(?)なめこ蕎麦を所望、
あじわっていただきました。
優劣つけ難し!
悩ましいのは、
女将さんではなくわたし。
判断を迷ったのはどうやら正しかったようです。
たぶんまた迷う。

・三月を鎌倉もあり文もあり  野衾

猫に敬礼

 

・けふの日の春を寿ぐうるう年

ガラケーからスマホに替えても、やることは、ほぼ同じ。
いや、ほぼでなく、
まったく。
電話、メール、写真。
三点セット。
グーグルで検索するのは便利でも、
パソコンでなく、
スマホで調べなければならないほど喫緊の案件など、
そんなにはありませんから。
ところで、
このごろやっと写真に慣れてきました。
初めて間もなくは、
撮ろうとすると、
画面がタテからヨコに九十度回転したりするから、
アっタマにきて、
「なんだこのヤロウ!」
スマホ画面をにらみボヤいていました。
が、
習うより慣れろということで。
おぼつかないながらパチパチやっています。
おとといでしたか、
よくつかう階段のところに
猫がおりまして。
だんだんぽかぽか陽気になってき、
猫も気持ちがいいのでしょう。
そうだ、写真写真、
と。
これをこうしてこうして、と。
そうしていろよ。うごくなよ。じっとして。じっと。
撮るよ。はお!!
なんだよ。
うごくなって言ったろ。
あ~あダメじゃん。
ん!?
ダメじゃなかった。
いいじゃん。
いいいい!
かえっていいのが撮れた。
ははは…
どうもどうも、どうもでした。

・ひかりの輪波紋はろばろ月おぼろ  野衾