フランシス・ジャムさんは「自然と愛の詩人」と称される詩人ですから、
自然観察とそれに裏づけられた描写も、
じつにすばらしいと思います。
たとえば、下に引用する「川はぜ釣り」の詩など、
ゆっくり目で追いかけると、
その場の光景が波となってキラキラ輝いているようです。
川はぜ釣り
この川は流れる葉むら、その色は
緑の榛《はしばみ》、緑の榛《はん》の木。
わたしは帽子を脱いで牧草の上に置く。汗びっしょりなのだ。
こおろぎが咲き乱れる野花の下でやかましい。
鋭く一声、翡翠《かわせみ》が飛び去る。
一場の夢でしかない青い稲妻だ。
わたしは細い釣針にみみずをつけて
川底あたりまでそれをおろす。
わたしが使っている浮きは羽毛かコルクで、
流れの具合によって、重くしたり軽くしたりする。
ここには渦がないので、浮きは飛びあがったりせず、
夏の木蔭《こかげ》でバランスよく眠っている。
あるかなきかの、それからもうちょっと素早い動きが
みみずに小魚が訪れたことを知らせても、
まだ上げてはいけない。とりわけ、いきなり上げてはだめだ。
水から引き上げるのは、四秒たって、羽毛が
川はぜに引かれてゆっくりと逃げ、
魚が跳《は》ねる気配を見せたときだ。
(手塚伸一[訳]『フランシス・ジャム詩集』岩波文庫、2012年、pp.346-347)
はぜを釣ったことはないけれど、
アブラハヤなら子どものころ、しょっちゅう釣っていました。
ふるさとの町の名前になっている
井川がゆるく蛇行するあたりの深緑色の水面に、
みみずを付けた糸を垂らす。
どきどきしながら浮きをじっと見ていた。
・春光の畑にしやがむ老婦かな 野衾