おセイさんはおもしろい 2

 

帰省中の新幹線のなかで田辺聖子さんの本を読みながら、
もう一か所、
ふき出しそうになったところがありました。
文庫本のタイトルは、ここから採られたものでした。

 

「キタノサンは、おくさんがはじめてですか?」
「いや、ちがいます。その前に知ってました」
こういう所、
キタノサンが機械屋だから正確なのではなく、男だから正確なのである。
女は、こういうとき、きまって、
ゴマカしたり、ウソついたり、話をおぼめかしたり、わからぬ風をする。
男は正直でいい。
「はじめて女の人を知って、何にいちばんビックリしたの? 教えて教えて」
と私はせがむ。
「さよう」
キタノサンは正確を期すべく、再びマジメに考えこみ、
「ふともも、でした」
「太腿」
「はあ、女のふとももって、こない太いのんか、とビックリしました。
太うて白かった」
「それは何ですか、年増で肥満した女性?」
「いや、すんなりした娘でしたが、
外から、あるいは横から見とっても分りまへんでした。それが、
脚あげたん正面からみたら、ほんとに太うて白うて――」
私、一生けんめい考えたが、どうもよくその状景がハッキリしません。
私の方は、というと、
男性の軀をはじめてみて一番ビックリしたのは、
「あのう、揺れてることでした。だって女の体で、揺れてるトコなんて
ないんですもの」
「バカ、あほ。淑女がいうことちゃう」
昔ニンゲンのキタノサンに叱られた。
(田辺聖子[著]『女は太もも』文春文庫、2013年、pp.272-273)

 

なお、文中の漢字「太腿」に「ふともも」、「年増」に「としま」、
「軀」に「からだ」とルビが振られています。
また「揺れてる」に黒ゴマの傍点が付されています。

 

・さびさびもとじぇねとじぇねも母の里  野衾