新ソバは清水の味

 

先週金曜日、仕事の帰りに紅葉坂をてくてく歩いていたときに、
ふと、蕎麦を食べたくなりまして、
そうだ、太宗庵へ行こう!
と、
急に思い立ち、
下り坂を右手に折れ、明かりの灯った太宗庵へ直行。
久しぶりの太宗庵は懐かしく。
まず、
女将さんと大将にごあいさつ。
コロナの新規感染者数がここのところ減っていることもあってか、
店内は、
距離をとりつつ数名のお客さん。
さてと。
壁のポスターに、大きい字で「新そば」と。
そうか。
新ソバの季節か。
食さぬわけにいかぬな。
「せいろの大盛りをください」
「はい。せいろ大ひとつ」
と、
厨房の大将へ女将さんのいい声が。
ほどなく、
せいろに盛られたきらきら光る新ソバが目の前に。
小皿には、ネギとワサビが添えられてあり。
小鉢につゆを三分の一ほど入れ、ネギとワサビを加えて静かに交ぜます。
箸でつまんで持ち上げたソバは、
なおも光を発し。
つゆにソバの端を落とし、やおら口中へ。
美味い。
新ソバって、こんなに美味かったか。
二口目。
美味い。
美味いだけでいいけれど、この味を言葉にしたらどうなる。
そうだ。わがふるさとの奥山、とったが(とさか=鶏冠)石の脇を流れる清水の味だ。
高校生の頃から蕎麦を食べて来たけれど、
蕎麦の味を初めて分かった気がした。
と、まあ、
そんなふうな感動を覚えましたゆえ、
このごろは土曜日、日曜日も出勤し、仕事をすることが多いので、
じぶんへの褒美を兼ねて、
土曜日と日曜日も太宗庵で新ソバを。
うしし。
三日連チャン。
三日目のきのうはさすがに、
「ごめんください」戸を開けた瞬間、
「いらっしゃいませ」と言って、わたしを見た女将さんの目がまん丸。
しばらく行かなかったのに、
行ったとなったら、三日つづけてだもの、
さもありなん。
ともかく、新ソバ、
太宗庵の蕎麦は天下一品だけど、
新ソバは尚いっそうの美味でありました。

 

・光つれ意味の意味なる枯葉かな  野衾