編者の意

 

「軍戎《ぐんじゅう》」は軍事の意で、「戎」は兵器、戦争のこと。
軍事に関する詩の部立てであるが、
収められるのは魏・王粲《おうさん》「従軍詩」のみ。
戦《いくさ》に関わる詩は中国では、
「従軍行《じゅうぐんこう》」「苦寒行《くかんこう》」
「飲馬長城窟行《いんばちょうじょうくつこう》」といった楽府《がふ》
を除いても決して少なくはないが、
『文選』に採られた詩が少ないのは、
編者の意を反映したものか。
(川合康三・富永一登・釜谷武志・和田英信・浅見洋二・緑川英樹[訳注]
『文選 詩篇(四)』岩波文庫、2018年、p.319)

 

『文選』の編者は蕭統《しょうとう》、死後の諡《おくりな》は昭明太子。
西暦501年に生まれ、531年に亡くなっている。
文章家として知られているが、
なんといっても『文選』の編者として後世に名をとどめた。
杜甫の愛読書であり、
日本にも早くに伝えられ、
『日本書紀』『万葉集』にも影響を与えた。
たとえば『万葉集』の編者である大伴家持が『文選』を傍らに置き、
つねづね目を通し、
じぶんの国でも、このような集を編纂したいと願い、構想したのかもの想像はたのしい。
編者は黒子であるけれど、
詩の取捨選択に編者の好悪と意思が反映し、
また願いがこめられ、
それが取りも直さず編者の表現になる、ということかもしれない。

 

・天の川宇宙のことを知らぬころ  野衾