いのちの思想家

 

・奥邃や吾人の平生糠に釘

朝、
少しずつ新井奥邃著作集を読んでいますが、
難しい漢字や熟語がいっぱい出てきて
漢和辞典を手放せないわけですが、
めんどうくさいと
ちょっぴり思いながらも、
嶮しくもたのしい勉強です。
高校入学と同時に買った
角川漢和中辞典では間に合わず、
白川静の字通をもとめ、
五十肩を気にしつつ、
本棚から引っ張り出しては
あぐらの上に置き、
しょっちゅう開いています。
漢和辞典の二刀流。
奥邃の文を読んでいると、
ほかの多くの本が遊びの本として遠ざかる。
遊びが悪いわけでなく、
弱いわけでないけれど…。
なぜ本を読むのか。
なぜ勉強するのか。
有神無我を勉強するため
と奥邃は喝破します。
いくつかのキーワードがあるなかで、
「謙」はもっとも大事なものでしょう。
謙虚の謙、
へりくだり。
これがいちばん難しい。
慾を去り
怒りを除くことが
人間最大の問題であり、
有神無我による謙無くして
なんの益することがあるでしょう。

字が
からだの深くに飛び込んでくるようです。
学問でなく勉強。
一生勉強。
なんの?
謙の。
今年の新井奥邃先生記念会に
初めて参加された方が二人おられました。
奥邃と親交のあった中村千代松の
ひ孫さん、
原田嘉次郎の
お孫さん。
お二人としばし時間を共にし、
お二人の立ち居に接し、
謙の深さと大きさに慄きました。
奥邃の謙は
スローガンでなく
旗幟でなく、
生きてはたらくいのち
そのもの。
一生が勉強と思いました。

・微妙の戸一息開けて微妙なり  野衾

靴磨き

 

・我が顎に薄のごとき銀の鬚

雨の休日はよくあることですが、
一日家のなかで過ごしました。
コーヒーを淹れたり、
本を読んだり、
湯に浸かったり、
出てはまた本を読み、
昼寝したり、
目を覚ましてコーヒーを淹れたり。
ふと思いついて
靴磨きをはじめました。
新聞を取っていないので
下に敷くものがない。
んーと、んーと。
大き目の紙袋でいいか。
ティンバーランド74130と
先だって
一度目のソール交換をしたレッドウィング8166。
オイルは、
青山にあるヘルツの店でリュックを求めたときに
店の人に薦められるまま買った
ラナパーレザートリートメントを使用。
靴用のスポンジにオイルをつけ、
ゆっくりていねいに伸ばしていきます。
いい感じで光沢がでてきました。
歩けるうちに歩こう。
歩けなくなるときがきっと来る。
なんて。
いろんなことが頭をよぎります。
ぎっくり腰も治ったことだし。
五十肩は歩くのには差し支えない。
さて今度はどこを歩こう。

・冷え冷えと縦に斜めに秋の雨  野衾

小便小僧

 

・来て停まり来て停まりする枯葉かな

JR桜木町駅で下車し、
下りエスカレーターにて地上へ。
駅のトイレに向かいます。
急に寒くなったせいか、
このごろとみにトイレが近い。
男子トイレのマークを見、
右へ。
桜木町駅でトイレはそこしかなく、
通勤客でいつも混雑しています。
と、
五歳、
いや四歳ぐらいの少年が、
ズボンとパンツを
(今どきはズボンのことをパンツという
ことぐらいは知っています。
が、
「パンツとパンツ」では何のことやら分からないし、
「パンツとサルマタ」では
一方が平成、他方が江戸みたいで余計におかしい。
だから「ズボンとパンツ」)
膝の辺りまでもろに下げ、
チ●コ丸出しでうろうろしています。
便器が一台も空いていません。
想像するに、
少年、よっぽど我慢できなかったらしく、
勢いよくズボンとパンツを下ろしたのはいいが、
便器が空いてないでは
したくてもできない。
できないできないできないよー!
チ●コ丸出しのままうろうろうろうろ。
そうこうしているうちに、
大便のほうへ向かった友だちでしょうか、
もう一人の少年がやってきて、
チ●コ少年に、
「内田さんに少し遅くなるって言っといて」
内田さんて誰?
先生?
それともいっしょに来ている友だちの女の子?
はたまたいずれかの親?
親を「さん」付けでは呼ばないか?
そんなことはどうでもよく。
チ●コ少年、
友だちの言葉が耳に入ったか入らなかったか、
あるいは
もはや洩れそうで
それどころでなかったか、
ただチ●コ丸出しのままうろうろうろうろ。
友だち、
さらに大きな声で
「内田さんに少し遅くなるって言っといてえ!」
と繰り返し、
チ●コ少年の返事を待たずに、
大便コーナーへ戻っていった。
ようやく便器が空き、
チ●コ少年、
チ●コを両手でつまみ、
ちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ
虫が急ぐように便器へまっしぐら。
あわや! と思いきや、
なんとか間に合った!
よかったぁ!
全身弓なりにし、しゃーっと。
まさに、まさしく小便小僧。
ふ~。
間に合ってよかったね。

・無言にて、な、そうだよなの薄かな  野衾

ただなんとなく

 

・台風過ひとも葉つぱも捩じり巻き

わたしが持っている聖書は、
たしか大学に入った年に買ったもので、
ずいぶん長くつかってきました。
赤鉛筆で線を引いたり、
ブルーブラックの万年筆で線を引いたり、
一字を○で囲んだり、
聖句の横に鉛筆でちょこっと
コメントを付したり。
早朝に新井奥邃(あらい おうすい)の文を読んでいて、
腑に落ちたことがありました。
それは聖書の読み方。
聖書はいろんな読み方ができる本で、
物語として読む人もいれば、
学問の対象として読む人もいる。
信仰の拠り所として読む人もいれば、
ホテルで時間つぶしに読む人もいるかもしれない。
置いてありますから。
奥邃は、
聖書はこう読むのだと
何度かそのことに触れていて、
その箇所に今回付箋を貼りましたから、
たとえばこうだと、
ここに引用することも
できないわけではありません。
が、
なんとなくはばかられます。
勿体をつけているわけでなく、
なんとなく。
自分なりに分かったことで
それを大事にしようと思う気持ちも
ないこともないのですが、
ごく微妙な気がし、
ただなんとなくはばかられます。
文字を通して真実に触れる
ことの困難に慄えるばかりです。

写真は、ひかりちゃん提供。

・喧騒の街に静告ぐ台風過  野衾

アンコール上映決定!

 

・行き行きて石に風あり秋桜

先日、
若葉町にある映画館ジャック&ベティで
割と最近のチベットを取材し撮ったドキュメンタリー映画
『ケサル大王』を観てきました。
ケサル大王というのはチベットの伝説の王で、
その叙事詩の長さは
インドの「マハーバーラタ」の二倍。
ということは世界最長。
知らなかった。
長いもの好きのわたしとしては、
知らないでは済まされない。
中国政府と緊張がつづくなかで、
チベットの人びとがケサル大王に
どんな思いや願い、
祈りをこめているかを、
大谷寿一監督が観光ビザで潜入し
体当たりで撮ったどきどきものの映画でした。
悪路を車で移動しながらの撮影が多く、
映像を追いかけているうちに
めまいに襲われたのには困りましたが。
と、
それはそれとして、
驚いたのは、
あの『きっと、うまくいく』が
アンコールに応え
追加上映されることが正式決定されたのだとか。
十一月の三日四日の二日間だけですが、
これは絶対に外せません。
これまで四度観て四度泣きましたが、
五度目も泣くか。
泣かないか。
ああ楽しみ!
DVDは十二月三日発売予定で、
こちらもすでに予約注文してあります。
すっかりハマってしまいました。

写真は、スライスくん提供。

・葉を返す風に秋棲む箱根山  野衾

箱根ハイキング

 

・秋風と光と踏みし石畳

三連休の中日、
気の置けない仲間と箱根に行ってきました。
箱根湯本駅十時集合、
そこから途中畑宿で昼食をとり、
さらに歩いて箱根神社まで。
江戸時代につくられた石畳の旧街道をひたすら。
箱根八里は馬でも越すがと詠われた路。
この度のコース、
八里はありませんが、
半分ちかくはあったでしょう。
紅葉にはまだでしたが、
広い原のすすきの穂が風に揺られさやさやと、
人間に分からぬ言葉でささやき合っているようです。
きらきらきらと光を放ち。
箱根神社にお参りし、
チーム最年少のひかりちゃんがおみくじを。
大吉。
妹思いのひかりちゃんです。
お守りも。
さて。
ゴールしたからには、
大人はビール、
子どもはジュース、
茶店でぐいと。
うんめーーーーっ!!
この喉鳴らしのための五時間。
病みつきになりそうな山歩きです。

・石畳履みて眼を上ぐ薄原  野衾

マスターズ陸上

 

・異常気象俳句だけでも秋の風

テレビをつけたら、
かなりのおばあさんが
ランニングシャツにショートパンツ姿で
トラックを走っていました。
なんだこれは!?
九十歳の守田さんという女性で、
六十九歳から(!)陸上競技を始めたのだとか。
五歳きざみの年齢別に競技がなされ、
それぞれの部門で日本記録、
世界記録が樹立されるのだという。
これまで九十~九十五歳までの
女子百メートルの記録保持者は、
ノーラ・ヴェーデモさんでしたが、
守田さん、
ヴェーデモさんの記録を破り、
ついに世界記録を樹立しました。
いつもは卵一個だけど、
大会当日は二個食べたというのも笑える。
カワイイ。
守田さん、
元気はつらつ。
テレビを見ていてさらにウケたのは、
一〇三歳のおじいちゃん。
九十六歳のとき、
ウサイン・ボルトの姿を見、
ボルトにあこがれ陸上競技を始めたのだとか。
すごい!
すばらしい!
笑える! 泣ける!
大会に参加している人たちの
どの方の笑顔もすばらしく。
こんな競技があったのか。
知らなかった。
参加資格が
競技歴の有無にかかわらず、
だれでもOKというのがいい。
番組はNHKの「クローズアップ現代」でした。

・秋なのに衣更えせぬ車中かな  野衾