ただなんとなく

 

・台風過ひとも葉つぱも捩じり巻き

わたしが持っている聖書は、
たしか大学に入った年に買ったもので、
ずいぶん長くつかってきました。
赤鉛筆で線を引いたり、
ブルーブラックの万年筆で線を引いたり、
一字を○で囲んだり、
聖句の横に鉛筆でちょこっと
コメントを付したり。
早朝に新井奥邃(あらい おうすい)の文を読んでいて、
腑に落ちたことがありました。
それは聖書の読み方。
聖書はいろんな読み方ができる本で、
物語として読む人もいれば、
学問の対象として読む人もいる。
信仰の拠り所として読む人もいれば、
ホテルで時間つぶしに読む人もいるかもしれない。
置いてありますから。
奥邃は、
聖書はこう読むのだと
何度かそのことに触れていて、
その箇所に今回付箋を貼りましたから、
たとえばこうだと、
ここに引用することも
できないわけではありません。
が、
なんとなくはばかられます。
勿体をつけているわけでなく、
なんとなく。
自分なりに分かったことで
それを大事にしようと思う気持ちも
ないこともないのですが、
ごく微妙な気がし、
ただなんとなくはばかられます。
文字を通して真実に触れる
ことの困難に慄えるばかりです。

写真は、ひかりちゃん提供。

・喧騒の街に静告ぐ台風過  野衾