フドガヤ

 JR横須賀線保土ヶ谷駅、平仮名で書くと、ほどがやえき、だ。ところが、近頃妙な発音を耳にする。
 総武線に繋がる普通の横須賀線では英語のアナウンスをしないのに、最近本数が急激に増えた新宿湘南ラインでは車中英語の案内が流れる。ネクスト ステーション イズ ホドガヤ だが、どう聞いてもホドガヤと聞こえない。フドガヤ、正確に言うと、Foodgayaと聞こえる。Next station is Foodgaya. なのだ。美味いもんのある駅なのかよ。連想がどうしてもそっちに飛ぶ。
 英語圏の人に日本語の「ありがとう」の発音を教えるのにAlligatorと教えるからといって、何も保土ヶ谷までFoodgayaと言わなくても良いではないか。あのアナウンスを耳にすると、なんとなくこそばゆい。
 保土ヶ谷をFoodgayaと呼称するからには、次の駅戸塚はToothkaみたいに発音するのかと思いきや、こちらはちゃんとぶっきらぼうにTotskaと言う。おかしい。なにか魂胆でもあるのだろうか。保土ヶ谷で降りてメシを食え、旨い酒を飲ませる店もあるでよ、ちょいとそこ行くお兄さん、寄ってかない、等々。
 その昔、保土ヶ谷は、日本橋を基点とする東海道の最初の宿として栄えた街。いまは正月恒例の箱根駅伝のポイントとしてテレビに出るぐらいで、火事でも起きなければニュースになることは、ほとんどない。年に一度の「保土ヶ谷宿場まつり」っていったって、ジャガイモのつかみ取りが華々しいぐらいで、あとは、「ソレ商品なの?」と思えるようなものまで出品されている。それはそれで楽しいから、雨で流れない限りは冷やかしに歩くが、宿場町として栄えた当時の面影は薄い。
 もしや、かつての街の繁栄を取り戻すべく、だれかがJRに働きかけたものだろうか。『東海道中膝栗毛』のなかに「お泊まりはよい程谷ととめ女、戸塚前ははなさざりけり」の狂歌があるそうだ。早朝に日本橋か品川を後にした旅人を、保土ヶ谷あたりの女がとっつかまえて放さなかった気迫が霊となり、Foodgayaと発音させたものだろうか。そう考えると楽しくなる。
 前からあたためている企画『はたらく横浜美人』は、保土ヶ谷を一つのポイントとして取り上げたい。