武器の谷のアメリカ

 お贈りいただいた飯島耕一さんの最新詩集『アメリカ』を読んでいたら、左足の親指がグググと音立てて攣って下方へ折れ曲がり、ヤッベー、と焦ったものの、我慢してそのままにしていたら、ほわ〜んと阿呆な笑いみたく治っちゃった。が、こういうハッキリした痛みではなく、今のぼくの痛みはもっと陰惨でちっぽけで、痔から出る血を座薬で一時和らげるような痛みでしかないな、と、そんなことを思った。痛みもほんの少ししか感じられなくなっている。
 「夏の雷」が気に入った。「夏の雷は/途方もない昔と同じくらい わめいて いるか」まったくだ。「生者の交合はあるか/死者のように 陰気な虫か何かのように/交合しているのはいるかも知れない」まさに、哀れ、陰気な虫のセックスだよ。
 「ヘルペス病中吟」という詩の、ヘル ヘル ヘルダーリンのリフレインは、少し声を上ずらせて音読すると、何ともいえぬ可笑しみがこみ上げて来て、とうとう涙まで出た。可笑しいのか悲しいのか、ぼくという一匹の虫がいた。
 最後の詩「アメリカ」のなかで、飯島さんは「武器の谷のアメリカ/悲しいアメリカ/それは私だ」と書いている。書かずにいられなかったのだろう。傑作詩集だ!