派遣会社

 知人のSは派遣会社に勤めているが、最近、だいぶ疲れている様子。
 派遣会社といっても、いろいろあるらしく、Sのいるところは、主に工場へ人を送り込む。年齢は20〜40代、一つのところに長く勤める人もいるが、そういうのは極めて稀で、良くてひと月、悪いと2、3日、ひどい場合は、初日午前中出ていたのに、午後トンズラすることだって珍しくないらしい。
 住むところを探してあげ、鍋釜まで買ってあげ、派遣先の工場へ一緒に面接につれて行き、朝は朝で、派遣社員がちゃんと派遣先に行っているか工場を訪ね、そこに居れば安心しそれから出社、と、思いきや、別の派遣先から電話が入って、出ているはずの人間が来ないというので、急いでアパートを訪ねたら、掃除もろくにしていない汚い部屋で斜めった布団に潜りこんでる青年を目にし、起きろ、起きろ、何してんだ、起きろ、会社に行く時間だろ、起きろよと叫ぶと、おもむろに布団から這い出し、おカネがありません。どうして、なんでだよ、と尋ねると、全部使っちゃいました、と。しょうがないな、これでまず何か食べて午後から行くんだぞと2000円渡す。はい、わかりました。起きて、ほら、歯を磨いて顔を洗って、布団をあげて、ゴミぐらい捨てろよ、ほら、起きろ起きろ、など言いながら、結局はSが布団をあげてたたみ、箒で軽く部屋を掃除する。それから一緒に部屋を出、コンビニでパンを買わせ、駅まで付いて行って電車に乗るのを確認し、やれやれと胸を撫で下ろし派遣先メーカーの担当へ携帯電話で連絡、間もなく出社するはずですからと丁重にお詫びし一段落、社に向かう。途中、昼飯をまだ食っていなかったことに気付いて会社近くのコンビニでハンバーグ弁当を買う。と、息つく暇もなく携帯電話が鳴り、もしやと悪い予感が走ったと思ったら案の定、さっき駅で見送った青年がいくら待っても工場に来ないという。もはやどうにもできない、すぐに別の人間を手配しますからと詫びを入れ電話を切る。やっと会社に辿り着き、きっと帰ってこない青年と2000円を思いながら冷えたハンバーグ弁当を口にする。
 そんなことの繰り返し、疲れないわけがない。
 いまどきの青年たちが、遠く北海道や九州から、なんとなく都会にあこがれて出てきても、工場のラインに付いて朝から晩までビスを留める仕事をしていては嫌にならないほうがおかしい。それでも、工場側からすれば、人にまつわるその部分の面倒くさい仕事をアウトソーシングできているわけだから、助かるのだろう。Sは毎日5時40分に起き、一日走り回り、帰宅するのは10時11時だそうだ。前より少し痩せて白髪が増えた。