月に慰められる

 

「月」だけだと、俳句的には秋ですが、「冬の月」となると、
すさまじい感じが伴い、また格別です。
『新古今和歌集』1782番は、
慈円さんの歌で、

 

思ふことなど問ふ人のなかるらん仰げば空に月ぞさやけき

 

峯村文人(みねむら ふみと)さんの訳は、
「わたしの思い嘆いていることを、どうして、
問い慰めてくれる人がいないのであろうか。
仰いで見ると、空に月がさやかに澄んでいることだ。」
この歌は、
建仁元年(1201)二月に後鳥羽院が主催した「老若五十首歌合」の中のものですから、
冬の月を見ての感懐だったのかもしれません。
いま空にある冬の月も、
八百年前の冬の月も、
同じように人のこころを慰めてくれることが、
歌を通して知ることができます。
この歌の月について、
峯村さんは、真如の月を暗示すると注しておられます。
真如の月はこころの迷いを破る悟りを示す月、
と。

 

・凩や灯りの下に佇めり  野衾