月と狂気

 

例えば、月の影響による狂気《リユナテイスム》は、
十六世紀においてはけっして疑う余地のない一定の主題であった。
十七世紀にも流行していたこの考え方は、
しだいに姿を消した。
一七〇七年、
ル・フランソワは、
「月ノ或ル種ノ状態ハ人体ヲ支配スルカ?」という学位論文を主張したが、
長い議論ののちパリ大学医学部は拒否の回答を提出している。
しかし十八世紀には、
狂気の第二義的で補助的な原因のなかにも、
月はまれにしか数えあげられていない。
ところがこの世紀のずっと終りになると、
月にかんする主題が、
――この主題をけっして全く忘却しなかったイギリス医学の影響によってであろうが
――ふたたび現われるのであって、
ダカン、ついでルーレとギスランが
狂人《マニアツク》の興奮の進行過程にたいする、
すくなくとも精神病における不安動揺にたいする月の影響を容認するようになる。
(ミシェル・フーコー、田村俶[訳]『〈新装版〉狂気の歴史 古典主義時代における』
新潮社、2020年、p.283)

 

すぐにピンク・フロイドのモンスター・アルバム『狂気』を思い出しました。
ウィキペディアによれば、
「売り上げ5000万枚以上を記録し、世界で最も売れたアルバムの一つ」
ということですから、
すごい!
『狂気』は日本語タイトルでありまして、
原題は、
The Dark Side of the Moon
「月の裏側」
とばかり思ってきましたが、
ネットで調べたら、
どうやら違うようで、
「地球に面していて、月の満ち欠けにしたがい陰になる部分」
が正しいらしい。
それはともかく。
月といえば狂気、狂気といえば月。
「人間の内面に潜む「狂気」(The Dark Side of the Moon)を描き出すというコンセプト」
(ウィキペディア)
を踏まえた日本語タイトルだったのでしょう。
ピンク・フロイドはイギリスのロック・グループですから、
月と狂気のイメージの重なり具合が、
ほかの国の人に比べて強いか?
と、
フーコーの『狂気の歴史』を読んで思いました。

 

・むめがかやふるさとこひしははこひし  野衾