ミメーシス

 

講談社学術文庫からでている岩崎勉訳『形而上学』
を入手したとき、
こちらもおもしろそうだな
と思って買ったのが
今道友信著『アリストテレス』
わたしが知らないだけで、
世界的に著名な学者であった(今道氏は2012年、89歳で亡くなっています)
ようで、
吉川幸次郎を読むときと共通の
迫力を感じながら、
最後までおもしろく読むことができました。
いくつか目をみはる箇所があったなかのひとつが以下の文。

 

芸術がミメーシスであるという考えは、プラトンにもあって、
アリストテレスはそれを継承したものである。
そして、
芸術模倣説は長く西洋を支配する。
従って、
これに対する芸術表現説は、私が初めて示したように、
古代から近代に至るまでexpressionは農業用語で、
意味は果汁をしぼり出すことであり、Ausdruckという語も
ゲーテの時代にはまだない程であったから、
十九世紀の末まで西欧の美学の正統の中では生まれて来なかった。
(今道友信『アリストテレス』p.476、講談社学術文庫、2004)

 

かたほうで、
アウエルバッハの
『ミメーシス ヨーロッパ文学における現実描写』
を興味ぶかく読みすすめていた時期なので、
よけいに目が留まったのかもしれないけれど、
プラトン、アリストテレスに発するミメーシス=芸術模倣説
の発想が
十九世紀の末まで連綿とつづいていた、
というのは
なんとも衝撃的なはなしでした。

 

・電車降りみな顔歪む炎暑かな  野衾