ひそひそ話

 

・あと少し待ぢだ待ぢだのお盆かな

昼、よく行く店のカウンター席に座り、
お茶をすすりながら泥鰌鍋を待っていると、
年配の男性二人が入ってきました。
テーブル席はすべて埋まっています。
わたしの隣りに並んで座りました。
二人、米寿を越していると思われます。
仲がいいのか、
ひそひそひそとあれこれ話します。
わたしの泥鰌がやっとでてきました。
唐辛子をささっと振ってから箸をつけます。
二人のうな丼はまだでてきません。
順番がありますから当然です。
「おれたちのは、まだかなー」
「遅いな」
「これぐらいかかりますと最初に言ってくれりゃいいんだよ」
「くれりゃいいんだな」
「おれたちの話、聴こえてねーのかな」
「聴いて聴かぬふりしてんじゃねーの」
「いや、齢(とし)だから聴こえねんじゃねえの」
わたしはここで、
口に含んでいた泥鰌をぷっと吹いてしまいました。
齢のいったものが齢のいったものを齢だからというのが、
なんとも可笑しく、
我慢なりませんでした。
わたしのすぐ隣りの米寿が、
「おいおいおい、なんだよ、大丈夫か」
と、体を反らせ、
露骨にいやな顔をしました。
すみません、すみません、
と謝り、
こぼれた汁をおしぼりで拭き取りました。
やがて待ちに待ったうな丼がでてきて、
米寿の二人はおとなしく、
並んで丼に箸をつけていました。

・盆踊りねじり鉢巻太鼓かな  野衾