順の字

 

・いつの間に入道雲の聳え立つ

論語で、六十歳は耳順。
棘のあることばもやり過ごし、
泰然としていられる、みたいな。
そんなふうになれればいいですが、
意地悪く言えば、
孔子先生だって五十九歳までは
耳順(したが)わなかったわけですから、
それがいかに難しいかということでもありましょう。
ところで耳順の順。
白川静の『字統』にこんなことが書かれてありました。
「水の徒渉すべきところに臨んで、
その安全を祈る儀礼を意味する字とすべく、
安全を祈り、安全を保証されることが、
順の初義であろう。」
また、
「もと自然の勢に従うことを順といった」とも。
なるほど。
自然は外にもあるけれど、
わたしの内にも自然は息づいており、
梵我一如でありましょうから、
耳順というのは、
やっぱり、
じいさんにならないと、
生きる力が少し減衰してくる頃合じゃないと、
至ることのできない境涯かもしれません。
それとも単に、
聴力が衰え、
耳が遠くなり、
相手がなに言ってるか聴こえなくなることだったり。
いずれにしても、
耳順わないことの多い、
順いたくない世の中であります。

・夏の星我れの足下消え失せり  野衾