みらいのゆくすえ

 

 情の無い虫の世界を風が吹く

しりあがり寿さんの「みらいのゆくすえ」が凄い!
事前注文ながら、
一店舗で四、五十冊というところもあります。
しりあがりさん独特の
赤青鉛筆のイラストと文章で、
これからのよのなかをゆるーく予想しています。
ウェブ連載のものに、
3・11後の書き下ろしを加えました、
ってなんだか、
通販の
今ならコレも付けて19800円でのご提供です、
みたいですが、
そういうことではありません、
いや、
ちょっとそれ的か?
ともかく、
しりあがりさんの名が
よく知られていることはもちろんですが、
みな、みらいについて、
ちゃんと考えたいということの証であろうと思います。
ちゃんと考えないといけない気がします。
やることも大事ですが、
考えることも大事。
考えたことは、やることに反映します。
ぼくはいま、
面倒臭いを仕事に織り込むことを、
歩きながら考えています。
自分の年齢を考え、
面倒臭いはキーワード、
キーコンセプトであるなあと思っています。
こころざしは面倒臭さを通って顕現する、
なんてことを…。
「みらいのゆくすえ」は、
アマゾンで予約が始まっています。
ゆっくり、しずかに、
これからを考えてみませんか?

 鞭打つごとかりりと硬き林檎かな

ローマ帝国衰亡史

 

 日に七度温度計の寒さかな

中野好夫の名を知ったのは、
大学一年生の時だったと思います。
新入生向けのパンフレットみたいなもので、
目にしたのだったかも知れません。
詳しいことは忘れてしまいました。
とにかく、
工業経済学が専門の先生から、
中野好夫の『蘆花徳冨健次郎』を薦められました。
筑摩書房から三巻もので出ており、
大佛次郎賞を受賞した作品です。
夢中で読んで、
面白いなあと思いました。
それまで中野好夫がどんな人か知りませんでした。
作品で取り上げている徳冨蘆花も面白いけど、
取り上げ方、
中野さんの人間を見る見方が面白いと思いました。
以来、
中野さんがわたしにとりまして、
一番かも知れません。
お嬢さんが書いた
『父 中野好夫のこと』には泣かされました。
中野さんが晩年に訳されたのが、
ギボンの『ローマ帝国衰亡史』です。
四巻までが中野さんの訳。
その後、
中野さんの遺志を継ぎ朱牟田夏雄さんが五巻と六巻。
朱牟田さんが亡くなった後、
中野さんのご長男である好之さんが、
七巻から最終十一巻までを訳されました。
最初の巻が出たのが一九七六年、
最終巻の発行が一九九三年ですから、
足掛け十八年ということになります。
三人の訳業もすばらしいですが、
版元の筑摩書房もエラい!
わたしは、
西ローマ帝国の滅亡を扱った第六巻までは読んでいましたが、
好之さんが訳された七巻以降は未読でしたので、
今読まなければ、
もう読まない気もしますから、
朝ぽつぽつと、
ユスティニアヌスの行状などに付き合っています。

 朝浸かり夕にまた入る湯や楽し

本づくり体験

 

 秋の日や紙にインキの本となり

多聞くんが用意周到に準備をしてくれ、
また生徒さんたちも楽しそうに、
かつ集中して事にあたり、
二日目の五時半には四人とも
可愛い本が出来上がり拍手喝采!
と思いきや、
な、
なんと、
一人の生徒が選んだフォントが化けてしまい、
句読点の位置が行の右側でなく、
左側に付いているではありませんか!
(年ごとに体験学習のグレードをあげ、
よき体験をしていただくために、
今年は製本を糸かがりにし、
生徒一人ひとりの好みに合わせフォントも変えています)
結局、
句読点の位置を修正し、
一丁(二ページ)差し替えすることになりました。
実際の製本過程でミスが生じた場合とまったく同じ作業です。
差し替えページのノドの部分を四ミリほど残してカット、
修正したページと奇麗に糊付けします。
息を殺し、
空気が入らぬよう、
指でていねいにボンドを塗っていきます。
ボンドが乾くのを待ち、
重しを載せて落ち着かせます。
仕上がりを見、ホッと息を吐き、
一同一斉に拍手。
これぞまさに体験学習。
最後の一時間が子どもたちにどんな印象を残したか、
訊いてみたいところです。

 一人居てギボンローマの秋深し

体験学習

 

 制服の娘(こ)らの笑ひの弾けたり

毎年恒例となっている体験学習が始まりました。
昨日と今日の二日間で、
十六ページの小さな本をつくります。
横浜女学院中学二年生の生徒さん四名を迎え、
初日前半は出版社の仕事について私が講義をし、
午後から本の製作に入りました。
ブックデザイナーの矢萩多聞さんと、
岡田くんが指導にあたります。
色とりどりの布製のスピン(しおり)を前に、
生徒さんたち目を輝かせています。
出版社を望んで来るぐらいですから、
物としての本、
紙に印刷された本に興味を持っているようです。
さて、今日は本づくり本番。
どんな本に仕上がるか、楽しみです。

 本は人人は本なり秋の風

子どもの写真

 

 月明けてノーベンバーとなりにけり

「橋本照嵩(しょうこう)と石巻のこどもたち青空写真展」
からもう一枚。
『臨済録』に出てくる有名な話を思い出しました。
野菜ばかりを食べている風狂の僧・普化に向かい、
臨済が「お前はロバのようだな」と言ったところ、
普化はすかさずロバになって鳴いたという。
下の写真を見てください。
「これを見るとこしがいたくなってきます。」
というのですから、
まるで普化みたい。
というより、
普化が子どもだったということかもしれません。

 日に一度一度一度の寒さかな