笑い皺

 

 肌寒き日々一生の夜明けかな

私用で一日休ませていただきました。
客の少ない電車に乗っていると、
若い男女が乗り込んできて、
目の前に座りました。
大学生でしょうか。
男も女も、
楽しそうに口をあけて笑い、
話しています。
女は二十六までに結婚したいのだそうです。
右手を頭の後ろへ回し、
左耳にかかった長い髪をさかんに後ろへかきあげます。
かきあげた髪はしばらくすると、
また落ちて耳を覆います。
すると、
濃い色のマニキュアを塗った白い指で、
飽きもせず髪をかきあげます。
その都度、
一瞬動きをピタリと止め、
付けまつげばっちりの目をキッとさせ、
顔の向きはそのままに、
男の話に集中するような仕草を見せます。
ミニスカートからにょっきり出ている円い膝を、
ぴっちりと閉じています。
鼻の横にできる笑い皺を見ていたら、
老人になった女の顔がありありと目に浮かびました。
持ってきた文庫本を読む気にもなれず、
更けゆく夜にジッと目を凝らしていました。

 口よりも言の葉多き眼かな