痰吐き女

 すすき原ギンガギンガと揺れてをり
 うわさにはその類の人間がいると聞いていたが、実際に見るのは初めてだった。
 東京駅の地下で下り横須賀線の電車を待っている時だった。ホームの乗車口案内の表示に従い電車が来るのを待っていた。ふと横を見ると、年の頃七十ちょっと前くらいの女性がいた。若い時整形でもしたのか、顔の皮膚が引き攣り、てかてかしている。整形した人の顔というのは、どこか似ている。人間のやるわざだからか。
 その女性、やにわに、カーッ!と大きな声を出して痰を切ったかと思いきや、ツツツと歩いて、ホームに置かれているゴミ箱の一つに直接痰を吐き出した。普段からそうしているのか、特別のことをしたというのでもなく、また元の列に戻って並んだ。なにか恐ろしい気持ちの悪い生き物を見た気がした。

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