井内字上野

 床の間の雉も羽ばたく帰省かな
 今回は三泊四日の帰省でした。
 三日目の朝、ふと思い立って散歩に出ました。
 家を出て、バス通りへ。左へ曲がり、道は右へカーブしながら下り坂になります。幼なじみの昌子さんの家を右に見ながら歩きます。右手に、子供のころよく通った床屋さん、左手に、三幸商店。さらにすすんでY字路。左の道に入ってあるくと、ここも同級生の家です。
 道がくねくねとカーブして川沿いに出ます。黒塗りの家は兼人さんの家。橋を渡ってさらにあるき、右へ折れて急坂を上り、同級生の晶子さんの家の前を左に曲がると墓地です。何度も夢に見ます。墓を訪ねると心が落ち着きます。墓地の端に立つと、遠くの丘の上に我が家が小さく見えます。井内字上野の地名のとおり。
 墓地を下り、元来た道を橋まで。そこから、今度は右へ。千世子さんの家があります。子供の頃、米を持って麹を買いに来ました。そこから道が急に狭くなります。二手から流れてきた水が一つになり、コンクリートの段差を舐めて大麦の方へ流れていきます。
 銀河鉄道の夜の最後のシーン、カンパネルラのエピソードが夢に出てくるとき、わたしの場合はいつもこの場所です。弟とよく釣りをしました。アブラハヤ。捕れたてを油で炒めたり焼いたりすると美味しい魚です。そこからもう一度、四方に目をやりました。井内字上野。広げた両手に入るぐらいの広さしかありません。
 田仕事をしている人に名乗れば、どこの誰と、きっと教えてくれるのでしょうが、それもなんだかはばかられます。昌子さんの家を正面に見て、スイッチバックのように上り坂に入れば元来た道です。
 家に着いて時計を見たら、ちょうど一時間。でも、もっと多くの時間を歩いたようで、少々疲れました。
 父母弟祖父母ゐて大運動会

4820d9ff305ad-080505_1017~0001.jpg