怒!

 朝の通勤ラッシュの電車の中、それでなくても人いきれでムンムンしているのに、妙に暖房が効き過ぎていた。しかも立っている人それぞれが吊り革やシート横の背もたれの縁につかまっていたりして、電車の揺れに対し戦々恐々たる面持ちでいるところにもってきて、突如それは襲ってきた。下から!! モワ〜ッ!! ムワ〜ッ!!と。
 マスクをしていたのだが、ウイルスに対しては除菌率99.99%を誇るマスクでも相手が臭いでは手も足も出ない。まして、受け流すこともできない。
 わたしの前に立っている二人のオヤジのうちの一人なのだが、どちらとも判断しかねた。わたしは体をひねり、二人の顔をまじまじと眺めた。一人は三十代(たぶん)、一人は五十代(たぶん)。どちらも泰然自若、平気の平左を装っている。いや、二人のうちの一人は、わたしの観念などと関係なくいつもの出勤態度なのだろう。
 わたしは勝手に右手の口をへの字に歪めた意地悪そうな五十代のオヤジの仕業と勝手に決めた。こいつにちげえねえ!! 朝食ったものが賞味期限切れでお腹をこわし、それであんな腐臭ふんぷんたる屁をこきやがったのだ。それで、口を屁の字に歪めていたのだ!
 わたしは息を止め、人並みを掻き分けドアの近くまで行ってから大きく息を吐いた。
 暖房車への字のオヤジ放屁せり

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