背骨

 休日、気功に関する2冊の本を読んだ。『からだの自然が目を覚ます気功入門』『気功生活のすすめ』。特に後者は、中国発祥の禅密気功についての考え方と実際について写真入りで解説しており面白く、わからないところも多々あるけれど、合点のいく記述が多い。
 「気」というと、念力で人を倒したり野生の動物を眠らせたりなど超能力みたいに扱われたりもするが(そういう側面もないわけではないけれど)、それは特殊な例で、基本的には、だれもが健康で楽しく生活するための方法だというのも頷ける。また背骨から気を取り込み、気を観、全身に気を流していくときの背骨の重要性は、西式健康法、操体、活元、野口体操、竹内レッスンなどとも重なる内容で納得できる。飽きない程度に、気持ちいいところから始めてみようと思う。

オーソドックスな編集

 小社の本づくりについて最近よく口にする言葉に「会社はまだ8年目で新しいですが、編集は極めてオーソドックス、古臭いといってもいいぐらい」がある。例に違わず出版業界もパソコンが普及し、パソコンなしでは夜も日も明けないのは他と同様だが、パソコンがいくらバージョンアップしても、パソコンが校正・校閲をしてくれるわけではない。農機具がいくら優秀になっても、その年の天候が作物の出来不出来を決めるように、本づくりにおいて大切なのは、著者との密な触れ合い、コミュニケーションの質だ。極端なことを言えば、本はその結果の産物。著者と会わずにデータだけ受け取って本をつくることなどあり得ない。著者に会うことで、その表情や口ぶり、自宅なら門構えや部屋の雰囲気、庭の静けさ、廊下の暗さなどから、送られてきたデータだけでは読み取れなかったもろもろが見えてくることがある。本にはそういうものも反映するし、また、反映させなければならないと思っている。オーソドックス、古臭い所以だ。

子供よ、外へ出よ

 教育学者の上田薫先生宅訪問。小社創業前に縁あって訪ねて以来だから8年ぶりになる。先生は来年米寿を迎えられる。記念すべき年を前に小社から先生の本を刊行することになった。先生は、現在も各地から依頼があれば講師として出かけておられる。また、書くことは楽しいと。ただ、家にじっとしていると体も心も具合が悪く、外へ出ていたほうが調子がいいらしい。そうかと思った。ほかの時代に比べると今は圧倒的に外へ出ることが少なくなっているのではないか。外へ出られない人ももちろんあるけれど、何か基本的なことのように、先生の話をうかがって思ったのだ。

来客

 午前中、写真集を出したいという企画会社の社長がみえられ、応対。まとまりそう。午後、旧友でミュージシャンの上田さんが、一緒にツアーを組んでいるオランダ人のアド・パイネンブルグさんを連れ来社。アドさんに写真集『九十九里浜』を見せ感想を聞くと、ひとこと、ビューティフル! 銀行の小社担当の方が第7期の資料返却に。S印刷会社のY本さんが同僚を引き連れ来社。おや?と思ったら、今月いっぱいでS社を辞め、新たに編集の仕事に就くらしい。今度の担当はHさん。よろしく。新刊の献本分を引き取りに近くの郵便局から二人、台車を持って登場。夕刻は宅配便の2業者。

瞑想

 専務イシバシから借りた五木寛之と望月勇の対談集『気の発見』がおもしろかったので、望月さんの単著『いのちの力』も読んでみた。対談でエピソードとして語ったことの背景がわかって興味深く、こちらも一気に読了。望月さんはロンドン在住の気功家。
 『いのちの力』のなかに、こんな話が紹介されていた。瞑想することが難しいという弟子に師匠が、それなら瞑想は要らぬ、ところでお前の好きなものは何か、と質問。弟子は、田舎に残してきた子牛がたいそう好きです、と答えた。師匠は、では、その牛のことを思い浮かべなさい、と告げた。数日経っても弟子が部屋から出てこないので、おかしいと思った師匠が部屋の外から声をかけると、角がつかえて部屋から出られません…、好きな子牛のことを思っているうちに、弟子は、いつしか子牛そのものになっていたという話。
 瞑想というと何やら難しそうだが、好きなものを思い浮かべることから始めてはと望月さんは勧めている。

あきらめない

 メイクアップアーティスト、ヘアメイクアップアーティストとして活躍中のIKKOさんが心に傷を持つ十代の子供たちと語り合うという番組をテレビでやっていた。IKKOさんが静かに語りかけても、子供たちはなかなか心を開かない。IKKOさんは一計を案じ、いっしょに食事を作ることに。その頃から、まだ言葉は出ないが、子供たちの表情がだんだん和らいでくる。車座になって食事をしながらIKKOさんは自分のつらかった思い出を問わずがたりに語り出す。話し終えると、ぽつりぽつりと子供たちから質問が出るようになった。最後にIKKOさんは自分の好きな歌である山本リンダの「どうにもとまらない」をゆっくりしたリズムにのせて歌った。カッコいい! テレビを見ながら、思わずジーンとなった。♪うわさを信じちゃいけないよ わたしの心はうぶなのさ、と始まるノリノリのかつての名曲が、IKKOさんによって新しいいのちを吹き込まれ、子供たちの心に染み込んでいくようだった。あきらめないで、が、IKKOさんの子供たちへの応援メッセージだった。

 最近よく行く横浜ルミネ6階美美壷壷(びびここ)で夕食、静かにソウルフルな歌が聴こえてきて、1曲はスティービー・ワンダーとわかった。気分よく箸をすすめていると、今度は太い伸びやかな女声の、えもいわれぬ歌が流れた。いい声だなあいいメロディーだなあ上手いなあと思っていると、もう矢も盾もならず、店の人に尋ねてみた。が、明確な答えは得られず。席に戻ってもまだ歌は流れていた。箸を持つのをやめ、しばし歌に聴き入る。すると、1箇所だけ「!」と感じる声と節回しに気づいた。カサンドラ・ウィルソン。間違いない! 数枚彼女のCDを持っているが、そのなかには入っていない。初めて聴く歌だったが、あの独特の声質は彼女を置いて他にはいない。