卓上カレンダー

 以前勤めていた出版社時代から付き合いのあるOさんから卓上カレンダーが届いた。Oさんは横浜勤務だったが、仕事ぶりを買われ成績不振の東京営業所に転勤になり、最近は連絡が途絶えていた。Oさんが横浜にいた頃、わたしはOさんにねだってOさんが勤務するA社製卓上カレンダーを社員全員分もらっていた。書き込みのできる、シンプルながら優れもので、わたしは十数年このカレンダーしか使ったことがない。
 今年は、Oさんの後輩で横浜勤務のIさんから3個いただいた。そもそも1個だけしかもらえないものなのだ。Iさんが3個くれたのだって異例で、今回は役員3人だけありがたく使わせてもらおうと思っていた。その矢先のOさんからの贈り物! 「ごぶさたしています。卓上カレンダー、がんばりました」とメモ書きが入っていた。胸にこみ上げてくるものがあった。人の縁。大事にしなければと改めて肝に銘じた。

天気のいい日は

 一昨日のどしゃ降りを忘れさせるかのように今日は快晴。昨日も午後からだんだん晴れて、夕刻には青空が広がった。知人から富士山がきれいとのメールが入ったので、ベランダに出、端っこまで歩き、夕焼けに染まる富士の勇姿をしばし堪能。寒さが体に染み込まぬうちに回れ右。同じフロアに入っている会社に目を向けぬよう注意しながら自室に戻る。

タイトル決まる!

 よこはま児童文化研究所の立川、原の両先生来社。すでに『知的障害児のためのラーニング・ボックス学習法』を上梓しているが、全国には子供の成長を願いながら、一般の学校ではなかなか受け入れてもらえないで悩み苦闘している親御さんたちがいることを考え、その方たちに研究所の画期的学習法を知ってもらいたいということから、研究所に子供たちを通わせているお母さん(お父さん)たちに集まってもらい座談会を開き、それを本にすることにした。編集が着々進んでいる。両先生を交えいろいろ話し合っているうちに、さらに本の輪郭がはっきりし、タイトルも『母の愛が奇跡を生む “遅れ”に挑むラーニングボックス学習法』に決定。研究所の活動は単独で成り立つものではなく、母(父)の信に抱かれていることを実感している子供たちだからこそ有効に作用すると考えられる。この本に関わりながら、母の愛は自前のものとは違う気がしてきた。

大きい文字

 電車のシートに腰掛けていたら、隣りに座った初老の紳士が鞄から徐に本を取り出して読み始めた。茶色の立派な革カバーがかかっていたからニ段組の聖書かなと思った。ところが、ニ段組どころか一段組のそれも14ポイントぐらいの文字でゆったり組まれており、当の本人は言うに及ばず、わたしにもどうぞ読んで下さいとばかりに一文一文が眼に飛び込んでくる。日本の美容業界に貢献したという人にまつわる人間模様を描いた小説のようだった。だれの書いた小説だろう…。黒い餞別…。ふむ。そんなことを考えている自分にはたと気付き、大いに恥じ入った。

旅する水晶

 ヒマラヤの奥地には水晶の洞窟があって、インド人のガイドを雇いそこを訪ねてみたいとヒデさんは言った。にょきにょきと生えたポイントが外の光を浴びて輝きだす。この世のものとも思えない。ハンマーなんかで砕かなくても、あちこち触っていると、かくんと外れるクラスターがある。それは旅したがっている水晶で、それに旅をさせればいい…。
 ヒデさんは子供の頃から石が好きだったそうだ。ヒデさんに会うことがあっても、今までは石の話を聞く機会がなかった。わたしが聞く耳を持たなかったからだろう。最近少し興味が出てきたので話してくれたのかもしれない。「石の基本は水晶です」とヒデさん。石に守られたことも二度、三度あるという。石を浄化するのに湘南の海に一日かけて出かけていたとも。ピュアな話は聞いているだけで心地いい。ヒデさんは版画家。

ケンケンラクダ

 来春刊行予定の『おばさん、辺境を行く!』本文中に入れる写真選びをしていて面白い写真に出合った。ラクダ。砂漠にしゃがみ込んだラクダがカメラに向かってニッと笑っている。片方だけ、でかい歯を見せニッ。どこかで見た顔。どこかで…。そうか。あの傑作アニメ『チキチキマシン猛レース』に出てくる犬ケンケンの笑い方にそっくりなのだ。ふてぶてしく、それでいてちょっぴりシャイな笑いを笑うケンケンラクダ。これ絶対採用! 編集者特権。

不審者?

 先月体験学習に来た女子中学生がその成果を発表するというので招かれ、昨日多聞君と二人で出かけた。
 横浜女学院は山手の山の上にある。分かれ道で多聞君が「こっちへ行ってみましょう」と言った方向が正しく、門の前に着いたのが約束の十分前。「じゃ。ちょっとここで待ってて」と言い置き、わたしはドアを開け門の横にある守衛室に向かった。「春風社と申します」「はい。どういうご用件で?」と、係の守衛さん、完全にこちらを疑っている様子。これこれこういうわけで参りましたと説明すると、急に表情が明るくなり、「ただいま門を開けますから、真っ直ぐ進んでください。左側が駐車場です」。あまりの変わりように驚いた。が、自分の姿形を振りかえり、守衛さんの応対は至極当然と思われた。目深に被った帽子、メガネ、マスク、マフラー、ダウンジャケット、ジーパン。これでは、みずから怪しい者ですと名乗りをあげているようなもの。こんなご時世だし、守衛さんは勇気を出して忠実に自分の務めを果たしただけなのだろう。
 久しぶりの学校。教室の後ろで我が子の発表を聞くお母さんたちに交じり緊張、謹聴。まみちゃんもゆりちゃんも、作った本など示し、体験したことを正確に伝え、お母さんたちからほーという声が洩れた。これがきっかけで、ふたり本当に出版社で働くようになったりして。がんばれ、まみちゃん、ゆりちゃん!