旅する水晶

 ヒマラヤの奥地には水晶の洞窟があって、インド人のガイドを雇いそこを訪ねてみたいとヒデさんは言った。にょきにょきと生えたポイントが外の光を浴びて輝きだす。この世のものとも思えない。ハンマーなんかで砕かなくても、あちこち触っていると、かくんと外れるクラスターがある。それは旅したがっている水晶で、それに旅をさせればいい…。
 ヒデさんは子供の頃から石が好きだったそうだ。ヒデさんに会うことがあっても、今までは石の話を聞く機会がなかった。わたしが聞く耳を持たなかったからだろう。最近少し興味が出てきたので話してくれたのかもしれない。「石の基本は水晶です」とヒデさん。石に守られたことも二度、三度あるという。石を浄化するのに湘南の海に一日かけて出かけていたとも。ピュアな話は聞いているだけで心地いい。ヒデさんは版画家。