体は正直

 風邪もだいたい治ったろうということで、昼、勢いつけて太宗庵へ行き、肉うどんとご飯と温泉卵を頼んだ。
 ところが、半分も食わぬうちに体内から変な汗がどっと吹き出し、どうしても食べ切れず、大好物の肉うどんを初めて残した。お勘定の段になり女将さんにわけを話すと、女将さん「おやおや。そうですか。まだ本調子じゃないんですよ。気を付けてくださいよ」
 三日間寝てばっかりで小食だったのが、いきなり肉うどんとご飯と温泉卵では胃もびっくりということなのだろう。体は正直だ。
 紅葉坂を上り、教育会館に戻ったら、玄関のところで会館の事務長に会った。会うなり「風邪ですか」と訊いてきた。わたしの顔がよほど青白かったのだろう。「気を付けてくださいよ。事務所のS、知ってるでしょ。昼飯食ったら戻しましてね。そいつはいけねえってんで、そのまま医者に行かせましたよ。今年の風邪は長引くそうですから、用心に越したことはないです」
 夜、ちょいと一杯ひっかけたら、これが美味かった。理由ははっきりしている。三日間、酒を一滴も飲まなかったからだ。体は正直だ。