悲観 楽観

 ある日、パソコンに向かって何やら検索していた専務イシバシが、いきなりこう言った。
 「このまま死んだら、わたしの人生なにもいいことがなかったということになるわ」
 悲観の虫が疼いたのだろう。まともに付き合っていると大変なので、黙って聞かぬ振りをしていた。
 翌日、またパソコンに向かっていた彼女、今度はこう言った。
 「わたし、お金が貯まったら、スイスに別荘買いたいわ」
 楽観の虫? 開いた口がふさがらぬ。
 「矛盾してねえか。きのう、あれほど悲観的、昭和枯れすすきみたいなことを言っといて、舌の根の乾かぬうちに、きょうはスイスに別荘かよ。それに、この前は葉山って言ったろう。とりあえず、どっちでもいいけどさ」
 「それもそうね。アハハハハ…」
 社内の空気が一気に和む。救いの神は無意識の不意の言葉にも潜んでいる。相田みつをよりもありがてえ。