黒澤明

 先日、カメラマンの橋本照嵩さんが来社した折、聞いた話。
 雑誌の仕事で黒澤明監督の映画(何の映画か訊くのを忘れた)のロケシーンを撮る機会があったとか。カメラを用意していたら、いつの間に来たのか、黒澤監督が橋本さんのすぐ傍にいて、じろじろ橋本さんを見た。「胴の長い男を捜していたのだろう」とは橋本さんの意見。
 びゅーびゅー風が吹くなかでのロケだったそうで、橋本さん曰く、「とてもシャッターを切れなかった」「カメラの仕事でシャッター切れないんじゃ意味ないじゃん」「そうなんだ…」とても立っていられなくてシャッターが切れなかった、ということではないだろう。
 黒澤映画で人を斬る時の音は、濡れたタオル(手拭?)を叩きつける音だそうだ。音だったら音、風だったら風、胴の長さだったら胴の長さ、即物的な要素を疎かにしていては、いいものはつくれない。