クロード・ルブランさんの本がおもしろすぎて、引用を重ねてきましたが、
そろそろ終りにしたいと思います。
さらに引用したい箇所はいくつかある(たとえば『映画とは何か』
の著者アンドレ・バザンさんに触れている箇所(pp.159-160)や
隠れキリシタンの地であった五島列島をロケ地に選んだことへの言及
(pp.404-405)など)のですが、きりがないので。
洋次の作品を見る視点が変わったことは、パリの人々に限ったことではない。
もともと彼らのほとんどははじめて見たのだが。
2022年7月、
ガンを患う坂本龍一は雑誌『新潮』に闘病日記の連載を始めた。
その初回で、
いくつかの歌についての考察をした後、洋次の人気シリーズに少し触れている。
「病気でもしなければこんな曲を良いとは思わなかったかもしれないし、
歌詞の内容に耳を傾けられるようになったのは歳のせいもあるかもしれません。
だから、
演歌だってまだきちんと聴いていないだけで、
今なら若い頃とはまた違った受け止め方をできる可能性もあると思います。
寅さんだってそうですね。
『男はつらいよ』シリーズの新作が毎年のように作られていた80~90年代、
ぼくたちの世代はそんな映画には目もくれずに
『ハイテク』だの『ポストモダン』だのと言いながら、
東京の街で遊び回っていた。
だけど、
その頃の寅さんも、
昭和という輝かしい時代が既にもう取り返しのつかない段階まで来てしまった
という、郷愁のテーマを扱っていたわけですね。
そのノスタルジックな感覚は、より敷衍して言うなら、
変わりゆく地球全体の環境問題を考えることとも繋がります。
だから自分が年を取った今ではもう、
『男はつらいよ』のタイトルバックに江戸川が映るのを見るだけで、
号泣してしまいます」。
これは、
国民の意識に決定的に刻まれた山田作品の深い印を、
もっとも感動的に承認した証言のひとつだと思う。
(クロード・ルブラン[著]大野博人・大野朗子『山田洋次が見てきた日本』
大月書店、2024年、p.745)
坂本龍一さん、こんなことを書かれていたんですね。
「『男はつらいよ』のタイトルバックに江戸川が映るのを見」て、
目頭が熱くなるとか、ぽろぽろ涙を落とすとかではなく
「号泣してしまいます」というのは、よほどです。
YMOもふくめ、坂本さんがつくりあげてきた音楽にも、
ノスタルジックな感覚があると思います。
・探梅行天に届けと子らの声 野衾

